死にいたる病 | ナノ


男鹿×古市

「貴様のそれは病気だな」

言ってしまってから、ヒルダは舌打ちしたい気分になった。
まっさらなシーツの中で眠る古市の頬に手を添え、何も動かなかった男鹿の、視線だけがこちらを向く。


古市が、喧嘩に巻き込まれた。珍しく男鹿はおらず、またまた珍しく、古市は怪我をした。男鹿が駆けつけたとき、古市は血だまりの中に倒れていたという。

もっと怯えると思った。

泣き喚き、慟哭し、脇目も振らず怒り狂うのだと。
だが男鹿は、いつも以上に淡々と不良どもをのし、古市を病院へと連れていった。命に別状は無かったものの、一応、ということで、古市はこうして、どこか死の匂いが付き纏う病院のベッドで眠っている。

「…病気?」

はん、と、男鹿がわらう。
その目は私を通り抜けて、空を彷徨う。不快だった。それ以上に、不気味だった。喧嘩しか知らない筈の男鹿の掌が、優しく、優しく、吐き気がする程優しく、古市の髪を梳く。睨むことしか知らない筈の三白眼が、穏やかに古市を映している。

「病気なら―治る。だけどこれは―治らない」

眠る古市の、額に巻かれた包帯に口付けた男鹿が、くく、と喉の奥で笑った。

「俺だけが、病気?冗談じゃない」
「…男鹿?」

ふと、目を覚ました古市は、目の前にある男鹿の顔に驚くでもなく、ただふわりと笑った。そのまま男鹿の手を絡めとり、その指先に優しく優しく口付けた!

「…ほら、こいつもだろ?」

男鹿の目の焦点は、もう彷徨っていない。


吐き気が、する。


愚かなことに意味があるのよ



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