箱庭 9 | ナノ


馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ。



協定など、生温い幻想だ。それこそ母星での歴史の繰り返し、無駄骨にも程がある。愚かなメガトロン、最早リーダーとしての役目は果たせぬ。だが安心しろ、お前にはもっと重要な役割がある。

オートボットとディセプティコンに亀裂をいれる、重要な役割が。

(「全てはディセプティコンの為、ひいてはお前の為なのだ…メガトロン」「っ?!よせ!」)
ただ傷つけるだけでも良かったが、それでは生温い、プライムの怒りを、隠された欲望を煽るには足りない。
だから犯した。錆びついた、凡そ破壊大帝には程遠いボディを押さえつけて口付け、同時にウィルスを注入し―記憶を改竄する。嫌だ止めてくれと悲鳴をあげるメガトロン、嗚呼愛しい。何も恐れることは無い、直ぐに此処に帰ってくることになる。何もかもを打ち壊した上で。

ブレインをショートさせ、気を失ったメガトロンを、オートボットの基地、司令官が丁度出てくるときを見計らって放置する。
ディセプティコン内部の反逆を知り、何よりメガトロンには人一倍執着するプライムのこと、最早メガトロンを人前には出すまいよ。それが記憶を失い、従順になったならなおのこと。



目論見は成功した。プライムはメガトロンを隠した。ディセプティコンには不信と動揺が生まれ、スタースクリームは確かに記憶を失くしたメガトロンと出会った。あとは切欠さえあれば良い。例えば、プライムとスタースクリームが、鉢合わせるような。













「…お前は?」
「俺はショックウェーブ。貴方を迎えにきた」
「儂を…?」

背後で絶えず爆発音がする。外で繰り広げられる惨劇など知らず、ただただ首を傾げるメガトロン様。嗚呼愛しき我等が主君よ。
可哀想に、右半分の御傷は、プライムに抉られたのですね。直ぐにリペアしますから。

「そうだ。貴方は私達の元から連れ去られたのだよ」
「…成る程、見慣れない場所だと思ったのはそういうことだったのか…。忌々しい」
「さあ参りましょう。皆が貴方を待っているのです」


交戦するディセプティコンに撤退を呼び掛けながら、ドリラーに命じ、メガトロン様のいた部屋を破壊させた。崩壊し、形を失っていくそれは、メガトロン様のカメラアイにはどう写っているのだろう。

「ショックウェーブと言ったか、すまないな、儂は何も覚えていないのだ」
「謝る必要などありませんよ、我が主」

あの箱庭より相応しい世界を取り戻したまでのこと。やはりあなたには、赤こそが相応しいのです。

「お帰りなさい、メガトロン」


崩壊


(愛に溺れて漆黒は香る)



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