人はそれを漁夫の利と言う | ナノ

(?×サム)

トランスフォーマーは金属生命体だが、ただの金属とは訳が違う。遥かに小さな車に変形だって出来るし、あらゆる武器を仕込むことも出来る。
そう、掌の表面温度を変えるなんて、それこそ造作もないのである。


サムはすやすやと、それはもう健やかに眠っていた。少しでも長く基地に滞在できるようにと夜遅くまでレポートに取り掛かっていた彼は、バンブルビーに連れられてやって来た後、ちょっと疲れちゃった、と椅子に腰掛け、そのまま机に突っ伏して寝てしまったのだ。バンブルビーが、そんなサムをそれこそ宝物のように掌に乗せて、機嫌良く座っていたのが少し前。
そして今。

「サムを乗せるのは俺だ!」「おいおい子猫ちゃん、冗談キツいぜ?」「眠ってるサムか…どんな発見が出来るかな、ワクワクするよ」

場は緊迫していた。上からサイドスワイプディーノジョルト。普段は仲良くつるんでいる三人組だが、サムが絡むとギスギスするのは、別段彼らに限ったことではない。

「そもそもディーノ、キミは人間が嫌いだろう?」「言ってやれジョルト」「サムは特別だ」

理解出来ないと排気するサイドスワイプに、ディーノは機嫌良さげにアイセンサを細める。

「バンブルビーが居ない、今しかチャンスはないんだぜ?」

そう。サムが絡めば真っ先に飛んでくるバンブルビーは、緊急呼び出しで泣く泣く基地を出ていった。眠るサムは置いていきなさいいやいけ早く嫌だサムも連れて行きたい駄目だ任務に支障が出るうわああんサム。ラチェットとアイアンハイドに引き摺られていくバンブルビーを、誰もが憐憫の眼差しで見送った。後には、そんな中でも規則正しい寝息を繰り返すサムと、基地に来ると大体レノなんちゃらとか某司令官とか某司令官とか某司令官に独占されがちで、苦い思いをさせられてきたオートボットの若手組が残った。

季節は冬、必然的に眠るサムを温める何かが必要だ。…そう、例えば、丁度良い温度に設定された掌とか良いんじゃない?

「サムが風邪ひいちゃうじゃないか、早く決めよう、というか僕で良いよね?」「いや待てジョルト、オレだって」「黙ってろペルファボレ〜」

毛布を持ってくるとか、暖かな部屋に移動させるとかいう概念は彼らに無い。サムを独占出来ること、それが重要なのである。
三人とも譲らず、事態は膠着状態に陥っていた。そんな空気を破ったのは、軽やかな双子の声だった。

「あれー!サム寝てるじゃんツマンネ」「起こそうぜーオレ遊びたい」

リペア室という名の拷問部屋から帰ってきたマッドフラップとスキッズは、目ざとく眠るサムを見つけると飛び掛かった。それにぎょっとした三人は、慌ててサムを申し訳程度に置かれたシートの上に避難させる。何だよ何だよ邪魔すんなよ、何するんだサムが起きるだろ!、良いじゃん別に、良くない!くそ、リペア室に逆戻りさせてやろうか!?、師匠も喜ぶね、きっと。
先程までの険悪さは何処に行ったのか、素晴らしい連携を見せて双子に襲いかかる三人組、それを遊んでくれると判断したのだろう、双子は笑いながらひょいひょいと攻撃を避けていく。
爆発音が基地の壁に反響する。ただの地獄絵図の中、やっぱりサムは夢の中にいた。世界を救った少年は、相応に神経が図太いもの。しかしそうはいってもサムは人間だ、冬に薄っぺらなシートの上に放られ、無意識にだろうくしゅんとくしゃみが漏れる。だが戦闘に夢中な彼らは気付かない。哀れサム、彼はこのまま風邪をひいてしまうのか?



「おやおや?こんな所でどうしたのかね」

気分転換にラボを抜け出してきたキューは、ぺらいシートの上で眠るサムと、縺れるカラフルな塊たちに眼鏡を掛け直した。ははあ、大方サム関係だろうなと見当付ける。皆サムを独占したくて、構いたくて仕方がないのだ。それは自分も例外ではなく。キューは軋む体に鞭打ち、どっこらせと屈むと、サムを掌に乗せてラボに帰っていった。

その後、基地が壊れる、という兵士の悲鳴と、ラチェットがすっとんでくるのは同時だった。



《サァム!》《ただ今ボクの天使!》《お帰りのキスとハグをおくれ、お嬢ちゃん》
「バンブルビー!お帰り!任務に行ってたんだね?」
「おお、お帰りバンブルビー」
《キュー?》《珍しいな…》

扉を破壊する勢いで基地に飛び込んで来たバンブルビーは、キューの掌から顔を出したサムにアイセンサをカチカチと明滅させた。

「キューの部屋で寝てたんだ。本当にごめんね?良かったのに、その辺に置いておいてくれれば」
「いやいやサム、嬉しかったよ」

うふふふあはははと笑い合う姿は、まさにお爺ちゃんと孫。仲睦まじい2人に少しだけ不機嫌そうに排気して、バンブルビーは、部屋に入ってからずっと気になっていた塊を指差した。

《あれ、あのカラフルな集団は何?》《イッちゃったの?》

部屋の隅、ボロボロになったディーノたちが、網に絡めとられて呻いていた。反省しろ、とラチェットが踵を返している、あの網はラチェットの発明品のようだ。一体全体何があったのだろう、自分が任務に出ている間にディセプティコンと揉めたのかと思うが、「僕にも分からないんだよ」とサム、フフフと笑うだけのキュー。

「さあね、若い子の考えることは分からんよ」


ジーザス!!

網の中、気絶する双子を除き、全員の心はそれだけだった。

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