ディノスワ 甘い匂いがする。そう呟いたのはディーノだった。 読んでいた雑誌を閉じ、くんくんと鼻を動かし出す。横にいたサイドスワイプは、相棒に不審な目を向けた。 「お前の香水じゃないのか」 「違うね、もっとこう…。花、花の香りだ」 「花?」 倣うようにすん、と鼻を鳴らすも、そんな香りは何もしない。 「しないが」 「んー…」 気になるのだろう、自分の髪や指や袖に鼻を寄せるディーノをもう知らんと言いたげに手を振り、サイドスワイプは作業を再開した。良い戦士はいつだって武器の手入れを怠らないという、彼の敬愛するアイアンハイドの持論の元、油を注したり磨いたり、解体したりと、サイドスワイプの手は忙しなく動き回る。 すっかり平和になったご時世に、ご苦労なこった、と、遂に雑誌まで嗅いだディーノはごちた。 「…ん?」 まただ。また、この匂い。 悪臭ではないから不快にはなりはしないが、いい加減苛立ってくる。自分は科学者でもなんでもないが、ここまで来るとなんとしても原因を突き止めたい。 「ぎぃやっ?!」 ばらばらばら。 サイドスワイプの手から、夥しい数のネジが落ちていった。あるものは床に、あるものはディーノ達が座るソファの下に、机に転がっていくのを見届けて、サイドスワイプはたった今舐められた首筋を押さえて振り返った。 「おま、え、何する!」 「舐めた」 ディーノはしゃあしゃあとサイドスワイプの非難を躱すと、ぶるぶる震える指先をさりげなく握り(殴られ防止)、再び首筋に擦り寄る。悲しいかな懐柔された体は嫌悪感より先にぞわぞわとした感覚を連れてきた。握り込まれた指に力が籠もる。 「ひっ…!やめ、」 「んん…」 「止めろって言ってんだろお前ーー!!」 「い゛!!」 羞恥とむず痒さに堪えかねたサイドスワイプは、直ぐそこにあったディーノの横顔に頭突きした。 悲鳴を上げて倒れ込むディーノ、戦士らしい筋肉のついた体は重く、のしかかられたサイドスワイプの唇からぐええと潰れた蛙のような声が零れる。と、唸っていたディーノが突然がばりと身を起こした。 「お前から、お前から匂うんだ、これ」 身動ぐサイドスワイプに畳み掛け、すっきりしたらしくうんうん頷くディーノに、さっさとどけとサイドスワイプは嘆息する。作業はまだ残っている、早く片付けたい。 「や、無理だわ」 「は」 ぺろり、鼻先にディーノの舌が滑る。唖然とするサイドスワイプは、服の裾から入ってきた指先に気をとられ、唇に落ちたキスへの反応に遅れた。 それで十分だった。 「言い忘れてたんだけど、この匂い、すげー興奮すんだよナァ」 いただきます。 跪いて高らかに愛せよ |