拐ってお前が俺のものになるのなら。 | ナノ


鷹鴉(FE 蒼炎前後)

※いかがわしい表現があります

圧し殺した喘ぎが繊細な刺繍の施された絨毯に吸い込まれていく。太股を支える手のひらはじっとりと汗ばみ、ともすれば滑りそうなそれを支えようと厚い筋肉が更に緊張するのを、ゆらめく視界でネサラは見ている。我慢が出来ないと部屋に入った途端におっ始めるものだから、いつ扉越しに声がかけられるのか気が気ではなく、二人の王が部屋で行う交わりを、城に仕える者には周知であることを、そしてそれを見られるのも聞かれるのも酷く嫌う王が、散々寄るなと言い含めていることも知らないで、ネサラはひたすら来もしない相手の為に声を抑え悶える。
「さっ……さと、終わらせ……っ、」
繰り返される口づけの合間に叩かれる憎まれ口も鷹王は片眉を上げるに留めて、お望み通り強く腰を打ち付けてやるのだった。


「キルヴァスでは、結婚したい娘を拐うんだろう?」
「……何?」
シーツにぐったりと身を横たえていたネサラは目だけ動かしてベッドに帰ってきたティバーンを睨む。その手に抱えられた水の入ったグラスを奪うように受け取ると、気だるげに起き上がって口をつけた。不遜な態度を特に気にするでもなく、ティバーンは自らもシーツに潜り込んで隆起するネサラの喉をじっと見ていた。ネサラが半分ほど飲んだところで差し出されたグラスを貰い、残りを有り難く頂戴する。2つに注いで持ってくりゃー良いだろうがよ、とネサラには何度も言われるが、こうして何かをネサラと分け合うという事実がティバーンの心を擽るのだから、止めるつもりはない。なんやかんや言いつつ、毎回水を半分は残してくれるネサラだって、ティバーンに言わせれば同罪なのだ。
「だからさ。お前の国では、好きな娘を拐ってきて妻にするんだろう?」
そういう噂があるんだが、違うのか?純粋に疑問で聞いただけなのに、ネサラはやれやれと頭を振ってさも馬鹿馬鹿しいと言いたげだ。
「ただの因習だ。現在のキルヴァスには存在しない。」
ネサラが自国の話をしてくれるとは珍しい。余計な言葉を挟まれるのを嫌う男だ、ティバーンが口を食んでいると、ネサラはぽつりぽつりと続けてくれた。
「一時期、王族が一気に数を減らしたことがあった。それを憂いた臣下が、娘を何人も拐ってきて王に献上したんだと。今となってはあり得ない話だが……あの頃は相当切羽詰まってたんだろうな。ま、世継ぎが一人二人産まれたところで、生娘は帰されたらしい。」
帰された娘に身請け話が出たかは定かではないが……。ネサラは呟く。
「問題はその後だった。王様がやったんだ、あれこそが正しいめとり方だ、なんて、意中の娘を拐って無理矢理婚儀を結ぶ事例が頻発してな。これはまずいってんで、国を上げて規制が行われた。だが、中々なくならなかった。」
お前も男だ分かるだろう?ニヒルに曲げられた唇にティバーンはたじろいだ。カマトトぶってんのか?不可解そうに寄せられた眉間の皺の深さと来たら。思わずしかめ面したティバーンにネサラは徐に目元を和ませる。
「男は良い。が、娘にしてみればたまったモンじゃない。家族がいただろう。好いた男もいたかもしれない。だが多くは連れ去られたまま相手と一緒になったと言われている。恐怖か、諦めか……。耐えかねて、命を絶ったのも少なくはなかったそうだ。」
漸く事件が終息を見せたのは新王が即位して10年ほど後のことだった。その王は大恋愛の末に結ばれた妻を心底愛していた。王は妻を傍らに何度も熱弁を奮った。良いかい諸君、愛とは斯くあるべきだ、夫婦とは斯くあるべきだ、とね。王の姿に民も徐々に悪習を忘れていった。……まぁ彼も、その妻を病で亡くしてからは一気にダメになったがね。と、まあそんなところだ。……
語り終えたネサラはぼんやりと中空を見据えていた。
ティバーンはよくよく見もせずほとんど感覚で手にしていたグラスをベッドサイドの棚に置く。落ちていないならなんだっていい。今ティバーンの思考を占めるのは目の前のカラス、それだけ。
「ティバーン……? 」
瞼に、頬に、口の端に、掠めるような口づけにネサラははっと焦点を戻した。そう、その瞳だ。己の存在しない過去を見つめるくらいなら、抉りとってしまったって構わないだろう。ティバーンの傲慢は露ほどもネサラには伝わっていなかった、いや伝わらないことこそ幸せなのだろうが、ともかく取り戻したネサラの視線を絡めとったまま、ティバーンは今度こそ湿った唇を奪った。
「今日は、もう……」
しない、でも、帰る、でも、言わせないし、させる気もない。知り尽くした箇所に指を這わせただけで大袈裟に震える身体で、どこへ行こうと言うのだろう。ティバーンは笑みを隠しきれなかった。憤懣やるかたないと吊り上がる眦に口づけ、熱を逃がすには邪魔なシーツを取り払えば、もう遮るものなどどこにもない。
「あ、あっ」
「ネサラ、ネサラ……」
縮こまる膝を強引に割り開き、まだ蕩けた秘所に自身を突き立てれば迸る、歓喜とも悲痛ともつかない喘ぎを、ティバーンに執拗に舌で擂り潰され、ネサラはとうとう溢れる涙を堪えきれなかった。顔を歪めるネサラにティバーンは夢想する。突如連れ去られ、意味も分からず泣き喚く娘を。そしてそれを恍惚の表情で抱く男を。まさしくそれは自分の姿であったと、ティバーンは確信している。

いともたやすく生まれてしまった






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