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高緑
※5年くらいたってる

『地下室の扉を開けてはいけない。開けたら見てはいけないものを目にすることになる』
少女は両親から、そう注意されていた。しかしある日、両親が出掛けている間に、少女は地下室の扉を開けてしまった。少女が、見てはいけなかったものとは、一体何だったのだろう?


和食が良いと俺が言ったので、今日の晩飯はぶりの照り焼きと肉じゃがになった。香ばしく焼き上がったぶりはつやつやと光沢を放ち、添えられた茗荷まで美しい。肉じゃがは食卓の上で湯気をたてており、人参の赤さが目に眩しい。副採には昨日の残り物のカボチャの煮付けとほうれん草のおひたし、鰹節つき。味噌汁の具は大きめにカットされたジャガイモで、一口口に入れればほろりと崩れる柔らかさだ。ぴかぴかの白米はわざわざ取り寄せた厳選品らしい。ジャガイモ被っちゃってごめんね、大量に送られてきてさ、少しでも使いたくて、と、高尾は申し訳なさそうにしていたが、別に構わなかった。食器を並べるくらいしか出来ない自分に、文句は言えない。
反対側でカボチャを頬張っていた高尾がごくりとそれを飲み込むと、途切れていた会話が再び食卓に上る。食べながら口を開くな、一度強く叱ったら、以降高尾はきちんと守るようになった。

「でねー、真ちゃんは分かる?俺答え聞くまで全っ然分からなくてさぁ、」
「知らん。第一、そんなに見られたくなければ、厳重に鍵でも掛けておけば良かっただろう。人はするな、と言われるとしたくなってしまう生き物なのだから」

したがって、これは両親の過失だな。ぶっは、真ちゃん、そこかよ。しかも、真顔で。
笑いながら高尾はひょいと肉じゃがの人参を口に放った。

「鍵は掛けてたけど、その日はたまたま開けちゃってたんだって。バッカだよねー、」

俺ならそんなこと、絶対にしないのに。
口に含んだ緑茶はちょうど良い熱さだ。飲みきったところですかさず高尾が急須を傾ける。温まった身体に、ほうれん草のしゃっきりした冷たさが染みる。

「……少女は、扉を開けたことを後悔したか?」
「最終的にはしたんじゃないかなぁ」

答えを既に知っている余裕から、にんまりと吊り上がった唇がなんとも忌々しい。存外負けず嫌いなので、なんとしても正解に辿り着きたいという欲望が芽生えてくる。

「少女が見たものは、不快なものか?例えば、そう、死体とか」
「俺も最初そう思った!親がワルなんじゃないかって!でもざーんねん、違いま〜す」

高尾と同じ思考に至っていたことに若干落ち込んだ。両親が実は殺人を犯していて、その死体を地下室に隠していた。ミステリーでは良くありがちだ。

「地下室には、生きた人間がいたよ」
「…それは、少女に危害を加えたり、」
「してないさ、全然ね」

米の最後の一粒までしっかり食べる、おかわりは断った、また食べる量が減った、ぼんやり自分の衰えを感じる。俺はおかわりしようかな、高尾が席を立ってカウンターに消えた。

「で、どう?分かった?」

帰ってきた高尾が、行き詰まった己の思考を見抜いて、にまにまと意地の悪い笑みを深めている、小憎らしいことだ。むっつりと黙り込むことで反意を示すと、たまらず高尾が噴き出した。

「悪ぃ悪ぃ、ちょっと遊び過ぎた。クイズにも真剣に付き合ってくれる真ちゃん、好きだぜ」

ことり。空っぽになった高尾の茶碗が置かれる。ふと気がつけば、食卓の皿は全て綺麗に片付いていた。

「少女は、両親の愛によって地下室に閉じ込められてた。だから、地下室の扉を開けた少女が見たのは、平凡なリビング、そして、初めて目にする青空だったんだって」

でもまぁ、真ちゃんにはそんなのいらないよね?
何も言えず俯くと、足首には鎖が静かに横たわっている。

S/O/S
(すべてが、おだやかに、しんでいく)

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