離してあげない | ナノ


(オールスパーク×サム)

疲れていた。
生まれた側から消えていく命。戦いを焚き付けるのも我が子、それを殺すのも我が子。積み上がる亡骸は増えるばかり、大地から悲鳴が耐えることはない。何故こうなってしまったのかも最早分からない。
だから逃げた。何光年と彷徨う内に見つけた原始の惑星。近くに輝く炎の塊と、湛えられた青に我が子を思い出して、そのまま私はそこに身を沈めた。もう誰も私を見つけないことを祈って。
(無駄な祈りだと、知っていたが。)


オールスパークは決まった形を持たない。例えキューブが破壊されようと、その膨大な叡知は決して消えることはない。ただ器が変わるだけだ。
だから、少年の手によってキューブが形を失った今、オールスパークは少し困っていた。自身の叡知を受け止められる器というのは、実はそうそうない。自分の余りの知識の多さに、大抵の容れ物が耐え切れずに壊れてしまうからだ。この銀色の我が子では、恐らくスパークと共にその身を壊してしまうだろう。それだけは避けたかった。

だから、その対象が少年―サミュエル・ジェームズ・ウィトウィキーに移るのは、当然だったかもしれない。
有機物の体に入るのは、これが初めてだった。存外居心地は悪くない。脆い体の癖して、内側は酷く柔軟で、壊れる気配もない。
(…おや?)
と、きらきらと輝くものを感じた。スパークではない。それは目には見えない。感覚でしかない。けれど。
(―こころ、)
サミュエル・ジェームズ・ウィトウィキーの、心は。暖かくて、優しくて、ふわふわして。
(揺りかごのようだ)

オールスパークは疲れていた。自身を巡る血みどろの戦いに、永遠に彷徨うしかない運命に。
温かな揺りかごが欲しかった。この傷ついた体を癒し、休ませてくれる揺りかごが。
(…見つけた)
サミュエル・ジェームズ・ウィトウィキー。君は幸運だ。君のそのまっさらな心と引き換えに、私の全てを与えてあげよう。
私は此処が、酷く気に入った。


砕けたスパークの欠片が、辺りに飛び散る。目を固く瞑っていたサムは気がつかない。まるで手品のようにポケットに滑り込んでいく破片に。
収束する光が、メガトロンではなく、自身の胸に吸い込まれていったことに。

オールスパークの暴走



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -