白雪
天から降り注ぐは白い粉
それは儚さと美しさを兼ね備えている
「見てごらん。金吾たち一年生が庭で遊んでいるよ」
一寸程開いた障子の先には寒さなど気にもせず元気に走り回る後輩が見える。自分達も彼等と同じ頃はああいう風に遊んだものだなと古い記憶を辿った。
天から降り注ぐは白い雪
万病を治す薬ではない
「なぁ滝はいつになったら目を覚ましてくれるんだ?裏山の畔に蛍を見に行こうと約束をしたのに、とうの昔に過ぎてしまったじゃないか」
私たちは忍ぶ者。
学園を出たら例え親しい間柄であろうと、戦場や敵の城で再会したのなら交じらわなければならない。そこにあるのは仕える者への敬意。どんな気持ちを抱いていようが、お互いを想うのは禁忌。
最期を共に迎えられぬなら、せめて最後くらいおまえと過ごしたいと思ってはいけないのか?
天から降り注ぐは白い弾
それは日々学問に励んでいた彼に長き休養を促した
――まったく!七松先輩あなたという人は何度言ったら分かるのですか?
――七松先輩のそういうところは尊敬してますよ、一応は…
――あなたに元気がないと後輩たちが心配するんですよ。そうなると私の言うことも聞いてはくれませんし、私も調子が狂ってしまいます。
――え?そ、そういうなら仕方ありませんねっ!この平滝夜叉丸がお側にいますから七松先輩あなたは…
――笑っていてください
土に、ボールに、最後に触れたのはいつだっけ。
今は何月、何日、何時なのかも正直にいうと曖昧だ。
「すまん。おまえが側にいてくれたのに約束を守れなかった」
私は忍ぶ者。
時には変装をする。真の姿を見られたくないから。
最高学年にもなればポーカーフェイスもお手の物だ。感情を読まれてしまったら命取りになり兼ねないから。
それでも
私は生きる者。
機械とは違い、自分の意志で動く。
「ここにいる間は愛まで忍びたくないよ。愛しい者が苦しんでる側で笑える程、私は大人じゃない」
私はここに居きる者。
しかし、あと少しで去らなければならない。
この愛しき場所、友人、後輩、教師、そして目覚めぬこの者を過去のものにする必要がある。
どうか、どうか、早く。
私が最後を迎える前に。
どうか、どうか、早く。
孤の者が最期を迎える前に。
「どうか、一度でも目を開けておくれ。そうしたら諦められるから」
私は今日もこの者に接吻をする。過多な思いを抱いて。
チック タック カウントダウン
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