ピーターパンはお呼びでない | ナノ
ピーターパンはお呼びでない

今日は巻ちゃんと久々のデートだ。

巻ちゃんだ!
巻ちゃんだ!
巻ちゃんなう!というやつだ!

レースのときとはまた違う緊張感と高揚感に落ち着いていられなくてそわそわする。
恋の力とは偉大だな。



「不審者になってるっショ」
「おぉっ巻ちゃん!今日もよく分からないけど素敵な洋服を着ているな!鳴門柄か?凄く中国だ!」
「おめェ喧嘩売ってるんかァ!?よぉ〜く見ろォ…どう見ても蛇っショ!?ちなみにmade in Japanだ」

巻ちゃんのファッションセンスは奇抜なのでよく分からない。けれど本人が蛇柄だと言うのなら蛇柄なのだろう。それにしても巻ちゃんは今日も美しいな!

「何笑ってるっショ…」
「ハハッ、巻ちゃんに会えて嬉しくてつい口元も緩んでしまったらしい」
「いつも歪んでるっショ」
「違う!歪みではなく緩みだ巻ちゃん!」
「ヘイヘイ」

全く巻ちゃんは照れ屋さんだな!
だがそこが可愛い!
巻ちゃんが可愛くてつらい!



「オーイ、戻ってこーい」
「ハッ。オレとしたことが意識を飛ばしてしまっていたらしい」
「家に帰りてェ」
「ムムッ!今日は巻ちゃんの家で"お家デート"というやつをするのだな!?それならば親御さんに菓子折りを持って行かなければ!」

まさかこんな早くにご挨拶が出来るとは…東堂尽八、男を見せるぞ!


「行かせねぇよォ!」
「あだっ!?」

痛い。巻ちゃんが頭を思いっきり殴ったのだ。そんな華奢な体の何処にそんな力を秘めているんだい巻ちゃん。


「行きたい店があるって言ってなかったかァ?」
「そうだ!それだ!!よく巻ちゃん覚えてくれてたな!」
「毎日メールでその話をしてきてよく言うっショ…」
「ワッハッハ!巻ちゃんは将来いい奥さんになれるな!」
「ハァ…とりあえず場所移動すっショ」


オレの行きたい店は最近この辺りに出来たショッピングモール内にあるらしい。
行きたい店と会いたい人の距離が近いとは今日のオレは運があるな!

「このエスカレーター昇ればすぐ其処だ」
「これほどまでに長くて高いエスカレーターを見るのは初めてだよ巻ちゃん!」
「はしゃぎすぎて落ちんじゃねぇぞ」
「子供扱いしないでくれるか巻ちゃん!」

同い年だというのに全く巻ちゃんは!巻ちゃんというやつは!可愛いぞ巻ちゃん!!

隣を歩いてた巻ちゃんはオレの後ろに周り、縦の一直線になってエスカレーターを待つ。



〜ここは夢の入口
〜さぁ、お手を取ってオレのお姫様
〜二人で一緒にいきましょう?




エスカレータに足を置いて左手は手すりに添えて上体を後ろに向けて「お手をどうぞ」と言わんばかりに巻ちゃんに右手を差し伸べた

「それはあんまりっショ…」

――が、あっけなくスルーされた。
しかもよく見ると巻ちゃんはまだエスカレーターに登ってない。
人の波がちょうどなくなったようで、巻ちゃんの後ろには誰もいない。

「巻ちゃん?」



〜早くしないと夢の入口が塞がってしまうよ
〜門の番人はこう問うよ
〜お一人さまでよろしいですか?





「クハッ、これがおまえと俺の心の距離かもな尽八よォ」




巻ちゃんはまだ下にいるのにオレは随分と高いところにいる。
これが巻ちゃんが感じたオレとの距離だというのか。オレが巻ちゃんに感じさせた


「お、オィ!尽八ィ!?」

ちょっと音が派手だけど気にしない。
だって巻ちゃんがそこで待っててくれるから。

「ただいま巻ちゃん!」
「あの高さから、無理やり下りてくるなんて有り得ないっショ!!インターハイ前に怪我したらどうするつもりだったんだよおめェはよォ!?」

珍しい。いつも冷静な巻ちゃんが声を荒らげている。


「すまん」
「おめェ自分がやったこと分かってんのかァ!?」
「本当にすまない」
「ヒヤヒヤさせんなよォ…」
「巻ちゃんがそう思ってるなんて知らなかった」
「ハァ?そりゃおめェがあんな行動に出るからだろォ?」
「なぁ巻ちゃん」
「何っショ」
「抱きしめてもいいかな?」
「は?」
「今とても巻ちゃんを愛しく想うんだ。駄目かい?」
「駄目とかじゃなくてここ公共の場っショ!?場所考えろォ!」
「なら場所を変えるとしようか。確かあちらに公園があったな?」
「ちょ、待つっショ!店見るんじゃないのかァ!?」
「そこならいつでも見れるだろ?でも、今のオレの気持ちは今じゃなきゃ駄目なんだ。店より巻ちゃんを見ていたい」「バッ…!おめェ果てしない馬鹿野郎だ!」
「ハハッ、そうだな、オレは果てしない巻ちゃん馬鹿だ!」
「じ、尽八ィ!!」





〜夢の入り口はこっちだよ
〜早くしないと閉まっちゃうよ
〜おや、あなたは先程の


"すまない!俺は巻ちゃんを置いてそちらに行くなど出来ない!!"


「さっきから何ブツブツ言ってるっショ…不気味だなおめェはよォ」
「当たり前にいるけど、こうして巻ちゃんといることは夢のような貴重な体験なのかもしれないと思ってな!」
「ハァ?寝ぼけてるんかァ?」
「しかし、もしこれが夢だったらオレは目覚めたくないな。巻ちゃんと一緒にいられるなら夢でも構いはしない」
「オレの家に行くからって現実逃避するなっショ。安心しろ東堂ォ…今日は家族全員外出しているから"ご挨拶"とやらはしなくていいぞ」
「なっ…なんだと!?」
「その菓子折りはおやつとして頂いてやるから安心するっショ」
「まままま巻ちゃんと密室で二人っきり!!」
「よし東堂おめェ今すぐ帰れ。」
「なんで!?」
「身の危険を感じた」
「ちょ、ちょっと巻ちゃん待って!!」




大切な人が隣にいること
それは奇跡なのかもしれない