「トラの目、私は綺麗で好きよ」
「ンなこと言うの、あんたくらいだと思うぜ」
ベッドの上、警戒心も薄く座っているお嬢は、遠慮無く距離を詰めるオレに全く動じない様子で頬に触れてきたかと思えば、そっと前髪を避けて隠れていた金の目を見る。
この目を綺麗だなんて言うのはこの物好きなお嬢くらいだ。
「……そうかしら? こんなに綺麗なのに」
オレだって他にはこんなヤツ見たことねぇ。左右で目の色が違うことで幾度となく気味悪がられてきた。
まあでも、お嬢が好きって言うなら。この目も嫌いじゃないかもな。
「ちょっ、ちょっと、トラ」
自分は好きに触っておいてオレが触ると動揺するとか、未だにこのお嬢は自分が純情だとでも勘違いしてるんじゃないか?
頬を滑り降りて、綺麗な髪をすきながら首筋を撫でると焦ったように後退しようとする。
……なんで逃げるんだよ。こんなのいつもやってるだろ。
全部欲しいって、先に言ってきたのはお嬢、あんたの方だぜ?
「なあ、撫子」
「何? ……っ!」
まだ挑発的な態度を崩さないお嬢の唇を軽く塞ぐ。何度も何度も重ねてるっつーのに、こんな触れるだけのキスすら慣れてなさそうに受け止めて、とんでもねぇ女だよな。
「っ、トラっ、待ってってば」
「オレの気が短いことくらい知ってんだろ」
長いスカートをたくし上げて膝から太股に向かって撫でると、本格的に拒否し始めるからまじで面白くない。
もう片方の手で腰を掴んで引き寄せると怯えたような目すらし始めるから苛立ってくる。
不安が心を支配してこようとすると何も見えなくなってくる。
「トラ、私のこの身体、九年眠り続けてたの知ってるでしょ?」
「あ? それがどうしたっつーんだよ」
「だから、っ、……私は初めてなのよ」
………………。
そりゃ、そうだよな。
さっきまで沸き立ってたのが嘘みてぇに怒りが消えていく。
「あんたの全部くれるんじゃねぇのかよ」
「全部あげるわ。私はトラが優しくて穏やかなことを知っているし、いきなり怖くなるところも含めて全部欲しい。ただ……私にも恥じらいくらいあるのよ」
強気に言葉を並べた後に俯いて濁す。
顎を持ち上げてやると真っ赤な顔で睨まれた。……正直、そういう顔すげぇ可愛い。
こっちはそれで理性がぐらつくってのに、お構い無しにやってくるからそんなことも知らないんだろうが。
「私が怖いのはトラじゃな、ん! ト……!」
深いキスで黙らせて、多少暴れてるのが収まるまで待ってやる。
長くしてるとだんだんお互いの唇がくっついてるのが当たり前な気がしてくる。粘膜が馴染むっつーか……口でこれなら……
合間に唇をつけたまま囁く。
「撫子、お前の全部くれよ。意味、分かるよな?」
「そんなの……っん」
「それから、もっとオレを欲しがれよ」
返事も聞かずに唇を貪っていると、途端に撫子が自発的に舌を動かし始める。
馬鹿みたいに頭が煮えてくる。オレからだけじゃなくて、お前から何かしてくる時。めちゃくちゃ嬉しくて見境無くなる。
「……ガッカリしたとかは無しよ」
「するわけねぇだろ」
珍しく弱気な発言にニヤリと笑ってやると、この負けず嫌いなおじょーサマはまた睨んでくるから。
いい加減学習しろよ。
その顔がオレを煽ってるってこと。
2015/08/22
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