2
後ろの方にシンとトーマを見つけて俄然気合いが入る。
私と目が合ったと気付いたトーマがいつものお兄ちゃんスマイルをくれる。
シンは、何を考えてるかまるで分からない程の真顔で、いつもと変わらない強い視線で私を射抜いていた。
逆にやる気が増した。あの無表情を崩したくて、シンに説教されないように、シンが褒めてくれるように、そう願いながら歌い切った。
「どうだった?」
我ながらなかなか良いライブだったと思ったし、早く反応を貰いたくてライブ後真っ先にシンの元に駆け寄った。
「あ、ああ……頑張ったな」
「!」
あのシンが目を泳がせながら、あのスパルタのシンが褒め言葉しかくれなかった。
『頑張ったな、とか、アホみたいに簡単な事しか言えなかった』
次は八月のシンの声が甦る。
ううん、簡単なんかじゃない。その一言が聞きたくて、私は成長出来た。私は頑張れたんだよ。
そう思って意識が切れたと思えば、心配そうに覗き込んでくるシンの顔と天井が視界を占めた。
「シン……?」
「はあ、やっと起きた。まじでビビらせんなよ。いくら電話しても出ないから来たら倒れてるし。寿命縮むだろ」
肩の力を抜いたシン。手が温かい、と思ったら、私の手を包み込むシンの大きな手。起きるまでずっと握っててくれたの?
「……今更気付いた」
「はあ? 何いきなり」
「私ね。ずっとシンが好きだったの。あの頃からずっと、シンを特別に好きだったの」
「…………」
握ったまま離さないでいてくれたシンの手を握り返す。
いきなりこんな事言われても反応に困るよね。眉根を寄せてシンは私を見据えてる。
「昔の事、思い出してた。私、いつも一番最初にシンに報告したかった。シンに会いたかった。なんで分からなかったんだろう」
「……オレが悪いんじゃないの、それ」
「え?」
「オレ、おまえの事女として好きになるの遅過ぎたんだよ。その辺、何にも分かってないガキだった」
シンの手に力が籠もる。
「遅いとか関係ないよ。シンは私の事好きになってくれたから」
何もかもに冷めて見えるシンがまさかこんなに情熱的に愛してくれるなんて、予想だにしなくてなかなか心が着いて行かなかっただけ。
「ずっとシンが好きだよ。今までもこれからも。あ、デート! 用意するね」
起き上がろうとすればやんわり押し戻される。
「んなの中止だから。黙って寝てろ、馬鹿。今日はどこにも行けないけど、ずっとついててやるから」
昔からシンの分かりにくい優しさが心を温かくする。
「……オレも多分、ずっと好きだった」
息かと聞き紛う程の小さな声と唇の動き。ほんのり赤くなりながら口にするシン。
そうやってまた一つ私を幸せにしてくれる愛しい人に笑いかけた。
2013/03/12
[*前] | [次#]
(2P目/お話内総P数2P)
<198P目/全お話総P数260P>
しおり TOP
ページ: