偶然じゃない
「本当に、偶然居合わせてくれたから助かった」
「あんなの助けて当然だろ」
「うん、ありがとう」
少しやつれた顔をして紅茶を啜るのを見て息を吐く。疲れた。
トーマの家に行ったら玄関から下着のコイツが走って出てきた時は焦った。
とりあえず上着着せて、アイツ殴ってきたけど、話が落ち着くのはもう少し先になりそうだ。
穏便に事を運ぼうにも襲われかけて許せなんて調子が良すぎるしな。
後、トーマの話は本当みたいだ。コイツはすっかり自分がトーマを好きだった事を忘れて、どうやらトーマの機嫌を全力で損ねてきたらしい。
頭痛い。記憶無い奴の相手ってどうすればいいの。
「どうしたの?」
考え込んでたら首を傾げて問い掛けてくる。
「別に、ちょっと疲れただけ」
「そっか。でも本当に偶然だったよね。シンに会えてなかったらどうしようかと思った」
「…………偶然じゃねぇよバーカ」
「え?」
口に出してしまったけど、その疑問符には答えないでおく。言ったらオレからも逃げそうだし。
あの日トーマに追い返されてから、オレは勉強の合間を塗ってコイツとトーマの家を行き来してた。
何回訪ねてもいないコイツの家。悲惨な郵便受けを掃除してるトーマ。こそこそ付け回してる複数の女。
それから、トーマしか出てこないトーマの家。
あれ以降も完全に監禁されてるなんて答えに行き着くのは簡単だった。
何とかコイツをトーマの家から出したい。だから、隙を窺う為にかなりトーマの家の前まで通ってた。
そしたら今日、とうとうコイツが走って飛び出してきた。
「あのさ」
「何?」
「色々おさまるまでオレの家泊まる? その間オレはリビングで寝るし、一応親もいるから一人暮らしの家より安心だろ」
「そうだね。じゃあ甘えようかな」
はあ、コイツ馬鹿なんじゃねぇの。返答が浅はかなんだよ。
記憶が無いせいでオレの口がいくらでも出任せを出せる仕様なのも、オレの親は夜勤が多くてよく会社に寝泊まりしてるから、実質二人きりになる事も知らない。
「暫くお世話になります」
結局は監禁してる奴が変わっただけだっていつまで気付かないで居られるだろう。
オレだってトーマとやってる事同じだろ。何でそんな安心した顔見せてられるんだよ馬鹿。
記憶無くして一段と抜けてるコイツを変な気抜いて守るとか、オレにだって出来るか分からない。
2013/03/08
[*前] | [次#]
(1P目/お話内総P数1P)
<206P目/全お話総P数260P>
しおり TOP
ページ: