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 戸惑いを見せる彼女の瞳から涙が止まる。最後の一滴を親指で拭ってやるとびくりと身体を揺らせた。

「……ダメ。私が悪いの、だから」

 弱々しい否定。それよりも、こんな目に遭わされてもまだ庇う程にあの人を大事にしている事、それにひどく嫉妬した。
 こんなに大事にされてるのに、あの人は一体何をやってるんだよ。

「わかった。何もしない」

 そう言えばほっと安堵する表情すら気に食わない。まじで理解出来ない。

「何も聞かないから早く帰れよ。そんな格好でこんなとこにいたら変な奴に絡まれてまた泣く事になるんじゃないの」

「あ、はい」

 髪を手櫛でとかして上着を羽織る。
 馬鹿みたいに従順、命令でも何でもないのに二つ返事でその通りにするのか。
 あれだけあの人には騙されないようにって念押したのに、そういうのだけは聞かなかった。

 靴をちゃんと履き終えた時、オレの事を不思議そうに見上げた。
 自分は帰らないのか、そういう目をしてた。

「家、近いからついでに送る」

「あの、ありがとう」

「……別に」

 礼を言われるような事は何もしてない。
 むしろ他人のプライバシーに首突っ込んで普通に迷惑な奴だろ、オレ。
 彼氏とのいざこざとかあんまり知られたくない事なんじゃないの。この人の事、ほんとよく分かんないな。



 送ってる最中は無言だった。何も聞かない、それは話をしないって意味じゃないけどそういう空気じゃないし、何言っても墓穴掘りそうだから黙ってた。
 そうすれば彼女も何も喋らなかった。少し間を空けて隣を歩いている。

 この人と帰り道を歩く日が来るとは思わなかった。
 いつだってこの人はイッキさんに送ってもらってたから。
 度々破廉恥なシーンとか平然と見せ付けられたり、オレはそれをこれがバカップルかって呆れながら見てる位置。

 色々思い返していたらマンションの前に着いていた。

「送ってくれてありがとう。じゃあ」

「あのさ」

 マンションに入ろうとするのを呼び止めると、彼女は困った顔をして振り返った。

「あんた明日出て来れるの?」

「出るよ。ワカさん怖いし。うん、大丈夫だよ。大丈夫」

 まるで自分に言い聞かせるように大丈夫って何回も、そう言いながら震えてる唇をオレは見逃す事ができなかった。

「強がるのやめたら。全然大丈夫じゃないだろ」





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