君へのいつかのプレゼント
いつまで続けるのかとか、そんなことは決めようとは思わない。
こいつが喜んでくれるなら、例え馬鹿みたいな嘘を吐いてでもあの兄貴分を呼び寄せてやる。
今日はこいつの誕生日。
せっかく追い付いていたのに、また一つ置いていかれてしまう日。おまえがこの世界に生まれてきてくれた大事な日。
小さい頃も今も、変わらずこいつを一番に祝うのはオレ一人じゃなくて、トーマも同じ。
こいつにとってはいつまで経っても二人共一番である事実は変わらないんだろう。
生まれてからずっと一緒にいて、やっと隣をオレ一人のものにして、それが当たり前に近付いても変わらないんだろう。
トーマに見せる安心して頼りきった笑顔、それは年下の弟分を長年つとめてきたオレが見ることは難しい。
トーマとこいつが相変わらず馬鹿みたいに仲が良いのを見るのは別に嫌いじゃない。今更に独占欲を刺激されるだけで。
「今日は本当に楽しかった! 誕生日っていいね!」
トーマを笑顔で見送った彼女がその笑顔を保ったまま振り返ってくる。
婚約者、いや、もう旦那になるオレとしては嬉しいような羨ましいような微妙な気持ちだけど、こいつがこうして笑ってるなら少しのモヤモヤくらい我慢してやってもいい。
「大人になると三人揃う機会も減ってくるからな。誕生日くらい何としてもあいつを呼び寄せてやるよ」
自分の女の為に他の男を呼ぶなんて聞いたこともない。
ただ、昔みたいに幼馴染三人で何でもない話をして、意味のない遊びをして、ただただ笑い合うことが最高のプレゼントになるなら、今からでも数年分のこいつの寂しさを埋めてやれるなら何でもしてやりたい。
「シン……」
「ちょ……なん――」
嬉しそうに笑ってから、何かを思い付いたように玄関にオレを引きずり込む。
扉を閉めながらオレの腕を掴んで背伸びをして、目を瞑る間もなく唇が押し付けられた。
「ん……っ」
抱え込んで続きを促すと甘い息を漏らしながら受け入れてくれる。
前にもこういうキスあったよな。あれはオレが二度目の告白をして、とりあえずオーケーみたいだったから早速奪ってやったやつ。
無抵抗にあっさりキスされるなんて記憶を失うまでに無かった事だから調子狂ったけど、それでも、我慢するなんてもう出来なかった。
「シン、前にもこういうのあったの覚えてる?」
「覚えてる。つーか、おまえは記憶が朧気なんじゃないのかよ」
彼女がそれに対してゆるゆると首を振る。
「今更にたくさん思い出すの。シンがいっぱい頑張ってくれた事、私を諦めないでくれて、本当に良かったって」
髪を撫でてやると嬉しそうに微笑むこいつはいくつになっても犬コロみたいだ。
あの八月はオレの今までの人生の中で一番と言える程、精神的にも体力的にもつらかった。
でも、今こうして笑うおまえが手に入るなら、あんなことなんてことない。あれはおまえが心から好きだって、もう一度確かめる為に試された事だって思える。
「何度だってシンを好きになる。だから、また記憶を失う時がきたとしても……」
「一回経験してるから余裕だろ。何度でも思い出させてやるから」
頬を包むように両手で挟んでやる。つーか、いつまで玄関でこんなことしてるんだか。
「……とりあえず片付けか。トーマが持ってきた馬鹿でかいプレゼントボックス開く前にやらないと収集つかなくなるからな」
「何が入ってるんだろうね」
部屋に入って子どものようにわくわくし始める彼女をそっと引き寄せる。
やっと二人きりになった。
「シン、今はまだ望めないけど。いたか欲しいものがあるの」
「? なんだよそれ。別に誕生日プレゼントとか今更だし。いつでもいい」
「ううん、もう少し先がいい。まだ二人でいたい」
「…………」
……意味が、分かった。
少しずつ大人に近付いていく彼女をこの四年ずっと見てきた。
キスも、その先も、未だに慣れたようでまだまだで、結婚することすら長い間待たせていたのに、こいつはもうそれ以上を考えていた。
「ね、いつかくれる?」
「……当たり前だろ。バカ」
額をくっつけて誓うみたいに呟く。
もうこの手の中のおまえが泣いている顔じゃなくて良かった。
いつかこの間にもう一つ幸せが生まれるとしたら、オレはオレの尊敬するような存在になりたいって子どもの頃から変わらずにそう願える。
2015/11/30
シン HAPPY BIRTHDAY!
次の愛に捧ぐ。
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