いつかの花束を捧ぐ
退院祝いに花束をもらってみたい。
そう言った彼女が花束の約束を思い出したのはそれから一ヶ月も先のことだった。勉強なんて放って花屋に走ったことを思い出す。
彼女に似合う薄いピンク色の薔薇にしようと思って、その可憐なたった一輪の金額を見て驚愕した。薔薇、つーか花って、こんなに高いのかって。
正直、バイトも辞めて受験に専念してる学生の財布にはなかなか厳しい金額だった。
結局、情けない程の本数の花束にしか出来なかった。
どこまでもカッコつかなくて、さすがに落ち込んだ。
「わあ! すっごく綺麗! シンありがとう!」
それでも彼女はむしろ萎えるくらいに喜んでくれた。いくらなんでも喜びすぎだろ、バカ。
こいつ、オレが何かやるだけで喜ぶんじゃないの?
オレが彼氏だから、カップルらしいことの一つに彼氏からのプレゼントって項目でもあるんじゃないのか。
情けなくて、悔しくて、誰よりもオレが納得出来なくて、いつか気持ちだけじゃなく喜ばせて、驚かせてやろうと心に決めた。
オレだって、ちゃんと大人の男になったから。
それでもおまえに釣り合うかって言われたら自信ないけど。
死ぬほど幸せだって心から言えるよ。
やっとおまえはオレのものになった。
「会場のお花、シンが全部用意してくれたんでしょ? 薔薇がいっぱいだね」
「そう。昔、おまえ、花束が欲しいって言ったことあったろ。全然束に出来なかったやつ」
「あ! あの時の薔薇の花束、嬉しかったなあ……」
純白のウェディングドレスに身を包んだ彼女の手元には薔薇のブーケ。
白い薔薇が花嫁姿の彼女にとても似合っている。
「あの時は十一本だった」
「? どうして? 半端な本数だったんだね?」
「オレも本当は十本にしようと思ってたんだ。けど、その花屋の店員に小さい男の子がいて、薔薇は本数で意味合いが変わるから彼女へのプレゼントなら十一本がいいって勧めてもらったんだ」
あいつからもらった綺麗なベールを纏った彼女の頭に触れる。今でもその意味合いは続いている。
「『最愛』っていう意味合いになるんだってな」
彼女の目は大きく開かれ、やがて花が綻ぶように嬉しそうな笑顔に変わる。
あの頃からずっと変わらないたった一人への想いにやっと気付いてくれた。
「もしかして、今日も何か意味があるの?」
「今日は会場とブーケと会わせて九十九本」
「また半端だね。ねえ、意味は?」
「言わなくてももう誓ったから、分かるんじゃないの?」
意地悪く笑って見せれば、彼女は少し頬を膨らませた後、また幸せそうに笑って肩に寄り添ってくる。だから、さっきから可愛いんだよ。
「私も、永遠を誓うよ。シンから離れない。ずっと、一緒にいる。世界で一番愛してるよ」
「知ってるよ。……可愛いんだよ。バカ」
人生で一番幸せな日に、やっとあの日の願いが果たされた。
薔薇、九十九本。
『永遠の愛』
2015/05/15
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