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「オレがおまえを見つけ出せなくて……おまえが死ぬ夢。それと、一歩遅くて誰かに殺されてる夢」

「えっ、二つも?」

「そう。悪いけど、探す側のオレの方がしっかり堪えてる」

 そっか。そうだよね。電話越しだけどあんなに取り乱して声を荒げるシンも、私を見つけて泣きそうな顔してるシンも、普段あまり表情が大きく変わらないシンからは想像出来ないくらい珍しいことだった。
 あの頃の私はシンと喧嘩ばかりしてて、シンは自分のしたいことばっかりで私のこと何も考えてくれてないって拗ねてたけど、素直に見ればシンはいつも私のことばかり。どんな自分に不利な条件も飲んでくれる。嫌がればやめてくれる。シンがそれをどれだけしたいと思ってても。

「! おまえ……」

 頭を抱え込むように優しく抱き締めて、いつも優しい唇にそっと触れる。
 シンは一瞬驚いてからすぐに次に行こうとするからそれは顔を押さえて回避。そしたらちょっと拗ねてる。

「シン、私も愛してるよ。言えなくて、分かるように伝えられなくてごめんなさい、んん……」

 夢のシンに何も応えられなかったから現実のシンに。そう思って口にすればすぐに柔らかくキスで塞がれてしまう。
 早いキスはついて行けなくて怖い。そう言っててもシンはたまに衝動的にこういうことをする。
 少しずつ怖くなくなってる。シンは、やっぱり優しいから。

「シンは言ってくれないの?」

「は?」

「夢のシンは言ってくれたもん。嬉しかった。ほんとのシンにも言ってほしい」

「やだ言わない」

「! また優しくない! シン時々優しくなくなる!」

「はあ……何でもおまえの言うこと聞いたら優しいって? 違うだろ」

 また他愛もない喧嘩が始まる。これも私がシンを好きだから、シンも私を好きでいてくれるから起こることなんだけど……

「だけど、言ってほしいの。言われないと不安とか確認とかそういうんじゃなくて、ただ……」

「そんな言葉、とっくに越してる場合たかだか五文字に収まらないんだよバーカ」

 シンの顔を見ようとしたら両手で視界を閉ざされた。シン、照れてるの? そう思うと頬が弛んでくる。

「目塞いでも間抜けなの分かるとか相当だよな」

「! シンだって照れてる癖に!」

 また始まった。

 喧嘩も仲良く会話する手段の一つだと思う。すぐ終わることを何度も繰り返して、それが続いていくことが幸せだ。
 シンがここにいるから、出来ることだから。


 2015/05/01




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