生きているということ
耳許を掠める寝息、一定のリズムを刻むそれが鼓動と同じで、あなたがここで生きてる証だって思う程に愛しくなる。
シン。
部屋で寛いでいた時、突然後ろから抱き締められたと思えば、少ししてから肩に乗せられた頭が重みを増した。
寝た。まさかこのまま寝るとは思わなかったけど、シンはいつも疲れてるから。ちょっと重いけど寝かせてあげたい。
「シン、この間怖い夢を見たの」
静かに話し始めても起きる気配はない。
夢の話なんて、しっかり起きてるシンにしても夢は夢だろって言われて終わっちゃいそうだから、今そっと話したい。
「私が瓦礫の下に埋まっちゃった時、実際はシンが私を見つけて助けに来てくれたのに、何でだろう、夢だとシンが電話でね……」
不思議。本人は私を抱えて寝ているのに、ただの夢なのに声が震えてくる。
「シンが、愛してるよって……ずっと言えなくてごめんって……遺言みたいなこと言って、何だかすごく苦しそうで、それから……いくら呼んでも返事してくれなくなった」
声だけじゃなくて、手まで震えてきた。
夢の中の私はただ状況が読めなくて、ひたすらにシンに呼び掛けて、シンはいつも私のことばかり考えてくれた。きっとその時シンはとてつもなく苦しかったのに、伝えてきた言葉は私を想う言葉ばかり。
あの時の私に記憶があって、あの夢が現実だったら、私のことばっかりで自分は助かろうとしないシンを絶対に許さなかった。
「シンのそういうところ、大好きだけど、大嫌い」
「……誰を嫌いだって?」
「え?」
「うるさくて寝てられなかったんだけど」
不機嫌そうに吐き捨てて、シンはそのまま私を引っ張って寝転がる。
二人並んで床の上、目の前には案の定寝起きの悪いシンの顔がいっぱいに映し出される。
「夢の自分だとしても嫌いとか言われるの傷付く」
「えっと……」
「実際その時死にかけてたとしても、オレの最優先事項はおまえの安全確保。それが出来なきゃ死んでも死にきれないだろ」
素っ気なく結論を叩き付けられて、何も言えないでいるとゆっくり引き寄せられてシンの胸元に額を着ける形になる。
いつも通り、男の人なのに少し低めの体温を感じる。温かい。シンが生きて、そこにいる。
「あんな衝撃的なことあったら変な夢くらい見る」
「そうだよね……」
「オレだって見た」
「シンも? どんな夢?」
見上げると眉をひそめて視線を逸らされた。シンも、嫌な夢を見たの?
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