暑い部屋とアイスとおまえ




「扇風機回すと溶けちゃうもんね?」


 蒸し暑い部屋で彼女はまた一緒に食べようよと一本の棒アイスを取り出した。

 一緒にとか、半分ことか、こいつはやたら好きだ。
 それが外なら勘弁して欲しいけど、部屋の中なら別に嫌じゃない。

「食べないの? 冷たくて美味しいよ?」

 ……つーか、こいつは本当に何も分かってないのか。

 オレの足の上に座って白い足を惜しみ無く流して、なんか、肩とか透けてる服着てるし、間から指突っ込んでやったら怒られたんたけど、これ触らない男の方がおかしいんじゃないの?

 汗でしっとり濡れてるから、指先にすら吸い付いてくるような肩の質感。
 何度もつつくと嫌そうに身体を捩られる。

 これってどういうことなわけ。目の前に触れられる肌があって、彼女は汗を流しながらアイスに夢中だ。

 彼女の舌がアイスの上を滑って、くわえてやっぱり冷たいのか離して、あえて大きくくわえて、だけど冷たいのかすぐに口から抜いて。
 こいつバカなんじゃないの。そういうのって、男はどういうこと考えるか全然想像出来ないもんなの?

「なあ……」

 アイスとかどうでもいいから、オレはおまえが食べたいんだけど。

 頬に親指を滑らせてゆっくり顔を近付けると彼女は困惑したような表情になる。

「え、シン、あの」

「今おまえの口ん中、冷たいんだろ?」

「! もうっ、ちょっとまだ!」

 何がまだ、だよ。
 唇を啄むと当たり前だけどかなり冷たくて、柔らかさと冷たさを味わうように何度も触れるうちにびっくりする程熱くなる。

「っ、シン」
 
 嫌がらなかった癖に離れた途端に目で不満を訴えてくる。
 いつまでキス程度で恥ずかしがってるつもりだよ。

 アイスを見ると溶けて彼女の手に流れていた。
 その手を持ち上げた時、彼女は何かに気付いて手を引っ込めようとする。

「アイス食べたいんだけど」

「でも、なんか、今の食べるって……」

 顔を真っ赤にして背けるからもう一度腕を引き寄せる。
 最近色々してるからか、彼女の想像もほんの少しは鋭くなったように思う。

「おまえが想像してること、してやるから貸して」

 彼女の手に流れたアイスに舌を這わせると、彼女は羞恥と擽ったさから逃げようと腕に力を込める。
 溶けて脆くなったアイスを一口口に含んで彼女の頭を抱え込んだ。
 驚いた顔をした割りに素直に口移しを受けるから調子に乗りそうになる。
 毎回拒否されたら傷付くけど、こうやって素直に従われるのもヤバい。

「っ、んく」

 冷たい欠片が溶けて容量を占めていくのが苦しいのか、彼女は眉をひそめて声を溢した。
 全く、こいつは何も考えちゃいないし、全ての行動が無意識で恐ろしい。

 なあ、何もかもがオレには扇情的に見えるって言ったら、おまえは大人しくここに座ってないで逃げるんだろ?

「もう、シンは何考えてるのか分からないよ。どうして今そういうことになるの?」

「オレからすればおまえの行動の方が信じられないんだけど。おまえ、ほんとバカ。オレじゃないやつにしたら、今頃こんなんで済んでない」

「こんなことするの、シンだけだよ!」

「そうであって欲しいよな」

 いつまで経っても無自覚なままで困る。そんなところに振り回されてるのかもしれないけど。

 肩に手を回して抱き上げるとやっと何されるか自覚したらしい。今更顔真っ赤にして、遅すぎだろ。
 ベッドはすぐそこ、いくらこの部屋が暑くて余計暑くなるからって暴れても、絶対に逃がさない。


 2014/12/18




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