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「シン……?」

 匂い嗅ぎながらぐったりなんて、私、臭かったのかな?
 寝る前にお風呂に入ったばかりなのに、あ、でも、この夢の中ではお風呂に入ったかは分からない。

「……おまえ、一体風呂以外に何してんの? どうやったらこんな匂いするわけ」

「お風呂以外って……そんなに特別なことはしてないと思うけど……」

 何を付けるにしても、匂いが喧嘩しないように、匂いの似てる薔薇の香りに統一してるつもりだけど、あんまりたくさんは付けてないつもりでも、臭いのかもしれない。

「あの、……臭い?」

「は?」

 やっと顔を上げたと思えば、何言ってんだこいつ、と言いたげな顔で見てくるからムッとする。

「逆だろ。今の鼻じゃないとしても、とても長い時間は嗅いでられないんだけど」

「え、でもそれって」

 嗅いでられないなんて臭い以外に思いつかない。
 混乱しそうになった時、耳元にシンが近付いてくる。

「これ以上この匂いの中にいたら、自分が何するか分かんない。意味、分かる?」

 艶めいた声色が鼓膜を掠めて、ぞくりと背中を何かが駆け上がってくる。
 分からないと答えればどうなるんだろう。だからと言って頷いても逃げられそうにない。

「……そのまま返事がないなら肯定と取るけど」

「シンは夢の中でも意地悪だね」

「へえ、おまえは夢だと思ってるんだ? こんなにリアルに感じるのに?」

 そう言われて私はまた押し黙る。
 確かにどこまでもリアルだ。シンの匂い、手の温もり、声も、仕草も。
 夢だとしたら、私はどこまでもシンを思い描いて感じようとしているように思える。
 そんな風に考えると暴れ出したくなってきた。夢の中でまで現実と変わらないシンと一緒にいたいなんて、とてもじゃないけど本人に伝えるのは恥ずかしすぎる。

「おまえはオレの匂い、しないの? 何とも思わないとか言われたら、傷付くんだけど」

 怒ってるような寂しそうな顔をするのは反則だと思う。シンは気付いてないかもしれないけど、耳も曇る表情に伴ってひしゃげてしまっているのがすごく可愛い。
 普段のシンの表情は読み取るのが難しいのに、こうやって耳が付いてくるとこんなにも分かりやすくて、私が思うよりもっとずっと愛しいことを思ってるのが伝わる。

「するよ。すごく。起きる前からずっと。困るよ」

「なんで」

「近付かなくても分かるなんて、近付いたら、私もどうなるか分からないよ」

 表に出す形は違っても同じ。私だって匂いだけでたまらない。


 2014/07/02
 嗅ぐ(主)




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