嗅ぐ(主)




 あれ……
 シンの匂いがする……

 シンと一緒に寝たんだったかな……でも、シンはちゃんと家に帰る人だから……
 だから、昨日の夜、私…………一人で寝たはず。

「!?」

 まだ寝ていたいけれど、シンの匂いがすることが気になって瞼を持ち上げた先、というか、目と鼻の先にシンの顔があって一気に眠気は吹き飛んだ。

「え? シン? あれ?」

「はあ……」

 起きたばかりで混乱している私は、近すぎるシンの肩を押し返すようにして起き上がる。
 そうするとシンは少し機嫌が悪そうにそっぽを向いてしまった。

 そんなシンの頭の上でぺたりとひしゃげる黒い何か。
 と思えばすぐにピンと立ち上がる何かは、どう見ても動物の耳だった。

「シン、何か頭に」

「おまえだって、ずっと生えてるけど」

「え、生え……」

 恐る恐る頭に手を持っていくと何か温かくてふわふわ、それからつるつる? そんな感触のものが間違いなく、付いているのではなく生えていた。

「……何これ」

「オレが知るかよ。それより、耳だけじゃない」

 そう言ってシンはうんざりしたような面持ちで自分の背中に手をやった。
 その手に掴まれてるのは耳と同じ色の尻尾だ。

「おまえと同じで起きたらこの状態。ここがどこかもよくわからない」

 辺りを見渡しても草原が広がっているだけで、周りには他に人の気配も無ければ、建物も何もない。
 よく出来た夢なのかもしれない。そう、夢なら何にも問題ない。

 ボーッとシンを見ているとすごく耳が気になる。変じゃなくて、こんなこと口にしたら絶対怒られてしまうけど、似合う。今だって機嫌の少し悪い黒猫みたいで。
 シンは普段から猫みたいなところあるから。だけど、甘えてくる時は犬っぽいかもしれない。……何考えてるんだろう。

「やっぱり、結構きつい」

「何が?」

 首を傾げた時には両肩を掴まれていて、一気に恥ずかしさで顔が熱くなる。
 見つめてくる瞳の瞳孔が縦に裂けているように見えて、すごく猫だ。でも、猫は猫でも、もっと大型の、獰猛な猫科の威圧感に思える。

「ずっとおまえの匂いがしてる。すげえ濃い」

「え」

 そう言えば、ずっとシンの匂いがしてると思ってたけど。
 考えているうちにシンは私の首筋に顔を埋めてきた。
 くすぐったくて身を捩ると、肩を掴んでくる手に力が込もって、もう片方の手は腰に回る。

「耳とか尻尾とか、見た目だけの問題じゃないのかよ」

 吐き捨てるように口にしてから、ただ匂いを嗅がれてるだけ。
 首筋から項に回り込んで、腰に置いていた手を撫で上げるようにして後ろ髪に差し込み、そのまま髪をかき上げると、シンは苦しそうに息を詰めてから、ぐったりと肩に寄りかかった。




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