全世界の君を幸せに
重い瞼を持ち上げた先の景色は青を貴重としたオーロラの空間だった。
あ、れ……ここは……
口に出したつもりが言葉は頭の中に響くばかり。こんなこと、前にも一度あったように思う。
そう、前にここに来たのは……
起き上がったつもりがもう立っているかのようで、かと言って地面に足がついているわけでもない。不安定な場所。浮いているのかどうかすらも感じることが出来ない。
そのオーロラの中にいくつか他の色づいた景色が浮かんで、また色を変えてを繰り返している箇所があった。
暫くそれを眺めていると、ぼんやりとしていたものがはっきりし始めて、ピントが合った瞬間には直ぐにそこに映し出される人物の名前を呼んでいた。それが音となって空間に響く。
「シン」
特徴的な癖毛の黒い髪。意思の強い鋭い瞳。可愛かった幼い頃を垣間見る少年の容貌に、私がまだ慣れることが出来ない大人の男性の色気が混ざり、表情でどちらかに不安定に揺れ動いて私をドキドキさせる。
……シンは私の大事な恋人。
「え……」
シンが映ったと思えば、またシンが映る。おかしい。同じ空間にシンが二人。そう思っていたところにまた一人増えて息を飲んで、また一人増えた時には両手で口元を覆っていた。
おかしい……どのシンが私の恋人のシンなのか、わからない……
私服のシン、浴衣姿のシン、冥土の羊のバイト服のシン、スーツのシン。
せっかくわかりやすく服装が違うのに、なんでだろう、自信を持って一人だけを選ぶことができない。
また記憶が混乱してるのかもしれない。
ということは、オリオン……?
え…………オリオンって誰?
そう思って辺りを見渡してハッと我に返る。当たり前のようにそう思ったけど、オリオンっていう名前? の人? が誰なのか、考えると思い出せない。
前に記憶が混乱した時、傍でずっと支えてくれていた存在がいた気がするの。
勿論、大部分ではシンがそうなんだけど、シンだけじゃない。
サワやトーマ、友達やバイト仲間もそうだけど、違う、もう一人……
思いだそうとすれば靄が掛かって、霧が濃くなるようにわからなくなる。
……私は今、何のことを考えて悩んでいたんだろう?
それよりもシンだ。どのシンが本物なのか、どうやって見つければいいんだろう。
顔を上げると、そこには四人のシンが私に向かって手を伸ばしていた。
その口元が動いて、きっと何ボーッとしてんだよバカ、と言っているに違いないと思った時には私はシンに向かって手を伸ばしていた。
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