救ってみた




 シンの為にも、記憶を取り戻したい。
 そう思って綺麗な星空を見上げた瞬間の出来事だった。

 間近で鳴る怒号のようなクラクションの音。こんな時間に、こんな狭い道に、こんな大きなトラックが……?

 走馬灯というのとは違ったけど、全ての動きがスローモーションになる。
 眩しい程のライトを浴びて、ああ、私轢かれるんだって他人ごとのように思った。

 あれ……運転席……誰も乗ってない……

 ゆっくりだった動きが通常の速度に戻った瞬間。痛いくらいに腕を引かれて道の端に倒れこんでいた。

「あ……」

 トラックが通り過ぎる。さっきまでは感じていなかった恐怖が今になって形になる。身体が小刻みに震え始めた。

「何やってんだよバカ!!」

「ひっ」

 そうだ。私は一人で引っ張られて倒れこんだわけじゃない。隣で座りこんでいる人を見上げる前にいきなりの怒声に飛び上がった。

「あの、シン……」

 恐る恐る顔を上げると、同時に苦しいくらいきつく抱き締められた。

「はあ……良かった……」

 安堵する息を聞きながらも、密着してるから分かる。シンの心臓の音がすごく速いこと。怖いと思ってくれてたのかな、なんて思うと少しだけ安心した。

「おまえ……」

 そっと背中に腕を回すと意外そうな反応が返ってきた。
 私は知ってる。この人が大事だってこと、優しいってこと、それから、大好きだってこと。
 思い出すとだんだん恥ずかしくなってくる。その恥ずかしさから離れようとすると、それをシンが許してくれなかった。

「ちょっと、上向いて」

「へ……あ……」

 顔が、近い! さっきの比じゃない程恥ずかしくて逃れたくて、腕の中で暴れるとシンが嬉しそうに笑った。

「何、今の怖さで何か思い出した?」

「うん、シンのこと……あと、恥ずかしいから、離して」

「やだ」

 また強く抱き締められて身動きが取れなくなった。
 誰もいない、車も通らない狭い道だけど、座りこんで抱き合うなんて考えただけで恥ずかしい。
 恥ずかしい、だけどそれよりも深い安心と思い出せた嬉しさがあった。

「シン、もう遅いから、帰ろう?」

「もう少しだけ、まだおまえのこと、帰したくない」

 優しく囁かれて心臓が跳ねる。いつだって安心とドキドキをくれる人。

「忘れててごめんね。大好きだよ」

 つい数分前には分かりもしなかったシンへの想いが形になる。まだまだ分からないことはあるけど、一番大事な記憶が戻ったからには大丈夫。もう何も怖くない。


 2013/08/31




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