2LDKの憂鬱
あっさりと決まってしまった三人暮らしを本格的に初めて三ヶ月。
部屋がそれぞれ違うから本当にただのルームシェア状態ではあるけれど、一つオレにとってのマイナスな変化があった。
「トーマ、これどうかな?」
「うん、美味しいよ。おまえは器用に作るね」
そう、アイツがトーマに手作りの菓子を作るようになった事。
自分勝手だとは思うけど、そのポジションはオレが独り占めしていたかった。楽しそうに談笑する二人を見ると眉間の皺がぐっと深くなる。
「あ、シンも食べる? トーマのお墨付きだからきっと美味しく出来てると思うの」
「要らない」
にこにことご機嫌に問い掛けてくるコイツを冷たくあしらうとその笑顔が凍り付いた
みるみるうちにしょげていく。オレはガキ臭い対応をした上、コイツを少しも笑わせてやる事が出来ない。情けない。これでよく独占したいなんて考えられたものだ。
「こらシン、せっかくなんだからもらえって」
「トーマが全部食べれば。オレ、おまえみたいに美味そうに食えないし」
完全に肩を落としてしまった彼女を視界に入れるとしまったという気持ちでいっぱいになる。が、ここで素直になれる程オレは大人じゃなかった。
場の空気を濁しておいて片付ける事が出来ないでいると、トーマがまあまあ、と優しく綿あめで包み込むようにその場を取り繕う。
コイツのこういうとこまじで嫌い。でも、そんな器用さが羨ましいと思わなくもない。
それ以降アイツと一言も会話を交わさないままに大学に行って、その事を考えないように一日講義の内容に集中して、大きく溜め息を吐いてから家に向かう。
帰ったら謝ろう。そう考えて足取りが重くなって、大学生になってもこんなに自分はガキ臭い嫉妬でむくれてるのかと嫌気が差した。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
玄関にトーマの靴が無い。トーマはまだ大学か。
キッチンの方からパタパタとスリッパを鳴らしてアイツが出迎えてくれる。朝あんな態度だったオレにいつも通りの対応。悔しいけどやっぱりコイツの方が年上だと実感した。
「何、また何か作ってんの」
さっきまで謝ろうと思ってた癖に出てくる言葉は冷たいもので、これでトーマに嫉妬したところでオレに勝算があるはずが無い。
「あのね。マドレーヌ焼いてみたから、シンに味見して欲しくて」
また断られると思ってるのか蚊の鳴くような声でそう言う。また無自覚なんだろうけど、恐る恐る見上げてくるその仕草が上目遣いにしか見えないって、コイツはいつまでも気付かないんだろうな。
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