彼女が年下の世界
この間のバレンタイン、チョコも貰ってくれたし、キスもしてくれた。何だか様子が変だったけど、頑張ればもう少し近付いてもいい気がして、今シンお兄ちゃんの部屋の前にいる。
おかしいな。もう帰ってる時間だと思ったんだけど。何度インターホンを鳴らしても応答がない。
にしてもあの日のキス、凄くびっくりした。物凄く強引で、唐突過ぎてその場ではただ驚いただけだったけど、家に帰って思い出すと恥ずかしくてたまらなくなってた。
私ばっかりシンお兄ちゃんを好きなんだと思ってたから、まるで心の底から愛されてるって思えるようなキスが嬉しくて仕方なかった。
「おまえ何やってんの」
「あ! シンお兄ちゃん!」
部屋の中からじゃなくて外から。今帰ってきたらしいシンお兄ちゃん。
まだ帰ってなかったんだ。残業かな?
「おかえりなさい。お疲れ様です」
「ただいま。つうか、いつから待ってたんだよ。寒いのに制服のままとかアホか。とりあえず中入れば」
「うん!」
刺々しい言葉の中にたくさんの思いやり、昔からシンお兄ちゃんは甘くはなかったけど、いつも私の事を考えてくれてた。
そう考えると心が温かくなるから寒さなんて吹き飛んじゃうよ。
「で、何しに来たわけ。もう遅いだろ」
「あ、えっと、シンお兄ちゃんに会いたかっただけなんだけど……」
やっぱりこういう理由だと納得してもらえないよね。眉間に皺寄ってるから。
私がいくら会いたくても、シンお兄ちゃんは仕事帰りで疲れてるし、きっと私と同じ事は思わない。
「はあ……今度来る時は連絡入れて。迎えに行くから」
「!」
何だか今日はいつもより優しい……!
「後、聞きたい事があるんだけどね」
「何?」
「この間のバレンタインの日、どうしてキスしてくれたの?」
優しい時に聞いておかないとと思って切り出す。ちょっと聞くの恥ずかしいけど、理由があるならそれを狙って頑張ればまた近付けるかもしれない。
「……何それ」
「え?」
「いや、覚えてない。というか、知らない」
どういうこと?
あの日確かにシンお兄ちゃんは私にキスしたのに。
理解が追い付かないとか、ショックとか、ぐるぐる回って言葉にならない。
「あの日の一部分記憶に無いんだよ。おまえが来てたの?」
「……来てたよ」
「そっか。無意識に何やってんだよ、オレ」
シンお兄ちゃんが知らないうちにキスしてた?
未だにどういうことなのか頭がついて来ない。でもそれならあのキスは不本意で、やっぱり私は今よりも近付けない存在。
目の前に希望をちらつかされたせいでなかなか受け止められなかった。少しでいいからしたくてキスしたと思ってて欲しかった。
「……おい、大丈夫か?」
「……え、あ、うん」
「まあとにかく悪かった。忘れて。言った通り卒業までは出来ないから」
「……そうじゃなくて……忘れるなんて無理だよ……だって、嬉しかったんだよ?」
「…………そう、じゃあちょっとこっち来れば」
こっちに来るように言ったのに半ば強引に引き寄せられて心臓が跳ねた。あの日と同じだと思ったから。
でもあの日とは全然違ってた。
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