「たくさんするのも?」
2013/04/23
「じゃあ、とりあえず……もう一回」
ちゅ。
頷いてから瞼を閉じる彼女にゆっくりと触れるだけのキスをする。
キスってこんなに甘かった? 今までのは全て失敗だったのかもしれないと思う程に、甘くて切なくて、あーやばい……
「……シン?」
突然固まってしまったオレに心なしか甘い声で呼び掛けてくる。
首まて傾げやがって、まじでやめろよ。何なんだよ。
妙に気合い入れて用意してたせいかいつもより数段可愛いし、この状況でそれはやばい。何の試練だよ。
「あ、十二時……」
「シン……」
「終わり。じゃあ帰るから」
立ち上がればジャケットを掴んで泣きそうに見つめてくる。
泣きたいのはこっちだよ。そんな目で見つめて、どうさせたいんだよ。どうもされたくない癖に。
「……まだ居てもいいけど、日が変わったから希望言うのはオレの番になるけど?」
「ほんとに? あと少しだけいてほしいよ」
「はあ……」
また座ればニコニコと人畜無害な笑みを浮かべている。おまえは馬鹿だよほんとに。
「じゃあお願い。もうちょっとこっち来て」
「? うん」
無防備に近付いてくるコイツを腕の中に閉じ込めたら条件反射のように身を固めた。それでもどれだけ昨日のオレがお気に召したのか、すぐに体を預けてくる。
「バーカ」
「? ふ、っ」
顎を持ち上げてキスする。さっきみたいにゆっくり近付いて、警戒を解いたのを裏切って唇を食むとビクリと肩が揺れる。
「なあ、こういうのも嫌?」
「ううん……んっ」
オレからすれば充分におまえも変だよ。
あんなに苦手だのつらいだの言ってたキスを今一生懸命受け入れようとしてて、その必死に応えてくれようとする姿がオレの目にはどう映るかも知らずに。
「あの、シンっ……」
だんだん焦り出すからもう十分無理させたって思った。唇を離して、でも離れがたくてもう一度重ねる。
「ほんとに、たくさんする……」
「もっとしたいよ。でも我慢する」
「どうして?」
「……おまえがそれ言うの? はあ、そんな事言ってどうさせたいんだよ」
相変わらずの抜けまくりの彼女を離して立ち上がる。これ以上長居するとまじで責任が持てない。
そんなに寂しそうにされると困る。おまえの望むような優しい男が出来る程の器量は持ち合わせてないから。
「もう帰るけど、次会った時も優しく出来るように頑張るから」
「! うん……!」
まるで犬が尻尾を振って喜ぶみたいに。
それがあんまり可愛くて最後にもう一度だけキスをした。