オリオン誕!!
2013/10/06



「今日もバイト? お疲れ様」

「あ! 君! 今帰り?」

 もしかしたら会えるかもしれないと思って仕事帰りに冥土の羊の前に寄ってみた。
 社会人一年目、思ったよりも凄く忙しくて、遊びに来るからなんて言って辞めたバイト先にもなかなか顔を出せなくて、久しぶりの早上がりで通りかかった今日、オリオンに会うことが出来たのも奇跡に近い偶然だった。
 嬉しくて声を掛けるとちょっと驚いた様子で振り返ってくれる。

「遅くまで大変だね」

「君だってここで働いてた癖に」

「だってオリオンはまだ高校生だもの。私は大学に入ってからだから、大変だと思うよ」

「…………」

 オリオンは少しムッとした表情になって顔を逸らす。何か気に障ること言ったかな?
 そう言えば、オリオンさっきから横を歩いてるけど、送ってくれてる?
 背も高くなったし、だんだん見慣れていた可愛らしい容貌が男の人になっていくのは少し寂しいなと思う。

 オリオン、たまにね、再開できた時みたいに頭から抱き締めたくなることがあるよ。でも、もうオリオンは私より大きくなったね。


「君は今はここに住んでるんだよね」

「うん……オリオンはまだあのマンションでニール様と一緒?」

 まだ一人暮らしできるほどの収入ないから、って少しはにかむオリオンは昔のままで凄く可愛かった。

「送ってくれてありがとう。また遊びに行くからね」

 手を振って踵を返そうとすると、唐突に近くの壁に押し付けられる。

「またって、いつになるの?」

「それは、仕事が安定するまでわからないけど……」

「そっか、寂しいな」

 オリオンは口を尖らせて俯く。さっきからだんだん距離が近付いてくる。なんだか、心臓がドキドキする。

「ねえ、キスしてもいい?」

「! オリオン!?」

「……オリオンじゃないよ。君がくれた名前でちゃんと呼んでよ」

 鼻先がくっつきそうになるほど近くで言われて、覚悟するように名前を呼ぶと唇に温もりが重なってくる。

「僕だって男だって言ったのに、君はいつまでも子ども扱いだから困るよ。シンの気持ちが少しわかるな」

「え?」

「ううん。ニール様に聞いたこっちの話」

 考えている間もなくまた唇が重なる。

「羨ましいな。君の五人の恋人達。ここでは僕がそこに混ざるのはダメかな? 僕だって、君を幸せにできる男になってみせるよ?」

 少し自信家に聞こえる台詞を言って子どものように笑ってみせた後、私の身体を包み込む。
 いつの間にこんなに男の人になったんだろう。まだまだ子どもだと思ってたの、可愛い男の子だと思ってたの。
 いつの間にか、抱き締めるのは私じゃなくてオリオンの役目になってたんだね。

「五人の恋人達? よくわからないけど、ダメじゃないよ」

「ふふ、君はまたそうやって無防備に返事するから……僕だって、君がびっくりするくらいすぐ大人になるからね」

 じゃあまたね。
 オリオンはたくさんの宣言をしてから去っていく。ずっとずっと傍で私を支え続けてくれた人、そんな宣言がなくたってもう充分頼りになる存在だよ。

 彼が恋人となる世界の景色はどう見えるようになるんだろう。
 後にニール様を介して聞く五人の恋人達とその世界の私が何度も苦しみながら繰り返した恋物語の延長線。
 それは八月に衝突した精霊の男の子と記憶を失った私が紡ぐ六つ目の恋の物語。


 2013/10/05
 オリオン誕生日おめでとう!!





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