後に立たない涙
2013/07/17
「ほら、飯だよ。あーんして」
無表情で口だけを開く彼女にスプーンで食べさせる。
雛鳥に自ら餌をやる気分は悪くない。それでも、俺の心は日に日に濁っていくようだった。
次の一口を待って俺を見上げるその瞳はまるでガラス玉みたいで、俺を見てるのに全然その瞳には俺を映してはいなかった。
「…………」
最初こそはやっと従順に俺の言う事を聞く彼女になったと喜んでいた。
もう後戻りは出来ない。もうやってしまった。もう終わった事なのだと言い聞かせるようになって、次第に頭が冷静になっていった。
壊れてしまったかと思ったのに俺は全然壊れてなかったみたいだ。
「ごめんな……ごめん……っ」
本当に壊れてしまったコイツに向かって謝る回数もだんだん増えていく。夜だけだったのが朝もするようになり、そしてとうとう飯の度に、目が合う度に口にするようになった。
「ごめん……俺の事、一生許さないで。死んでも許さないで……」
コイツが傍に居てくれるなら壊れててもいいと思っていた。最悪、死んでいても構わないと思っていた。
でも結局、やっぱりそれじゃダメだった。
笑いかけて欲しい。名前を呼んで欲しい。俺はどこまでも強欲だった。