友達以上不可
2013/07/13
前に借りていたアイツの高校時代の参考書を手に茗荷大学の前に来ていた。
別に、早く返せと言われた訳でもないし、家も近いから家に返しに行く事も出来るけど、まだ居るかと思ったら自然と足が大学に向かっていた。
制服を着てると目立つ。時期も四月だから見学に来るには早すぎると思う。だからってすれ違う人に好奇な目で見られるのは少々不快だ。
そんな気分に晒されながらも会いたいと思うオレはもうおかしいのかもしれない。そもそも、着替えもせずに大学まで来る時点で必死だ。よくよく考えたら、結構きもい。
「俺と付き合ってよ」
軽音サークルの部室に向かう途中で妙にちゃらついた声がオレの足を止めた。
視界の端に見えたのが彼女だったから。その声の先はアイツだ。
「えっと、ごめんなさい。今彼氏は欲しくなくて……」
……下手な言い訳。たまにこういう現場遭遇するけど、ほんといつも断るの下手。
見たところ同じサークルの奴だから穏便に済ませたいのは分かるけど、それじゃまだ押せば行けると思われるのが関の山だ。
「ふーん、じゃあそういう事にしとくよ」
時期見る気なのか案外あっさり引く男。また言い寄られてその度に言い訳考えて、さっさと断ってやった方がお互い絶対楽だろ。
目に見えてほっと安堵する彼女に近付くと、オレの姿を視界に入れて驚くでもなく笑った。
「あ、シン。今日見ていくの?」
「そのつもり。後これ返しにきた」
「いつでも良かったのに」
直ぐ様受け取ろうとするから届かない位置まで高々と持ち上げてやった。
「帰りに渡すから。で、さっきの何」
話題を切り替えればあからさまに表情が沈んでいく。
「どうして、友達じゃダメなのかな……」
「友達じゃダメだろ」
コイツは何も分かってない。悪い意味でひどく無垢。友達じゃ手を出せない。自分のものにならない。
「……友達だったらさ」
彼女を近くの壁に追いやって逃げ場を無くすとオレは顔を近付けた。
驚いて見開かれた大きな瞳が一生懸命にオレを捉えている。
「この先が出来ないから」
「っ、シンのバカ! からかわないでよ」
からかってなんかない。至って本気。近付く程に香る彼女の匂いでちょっと危なかったくらいだ。
こんな風に迫られても彼女は何も無かったかのようにたち振る舞う。結構傷付くな、これ。
「からかうも何も事実だろ。おまえがちゃんと断ってないから、相手からすればチャンスがまだあるように見えるんだよ」
「でも……付き合うのも仲拗れるのも嫌だよ……」
嫌と断言されてるのを聞いて僅かに口角が上がった。
だからって安心は出来ない。あの男が象外だっただけでこれから対象になる奴も出てくるかもしれない。
他の奴よりも早く手を打たないと。
オレだって、コイツに触れたくて仕方ないんだから。