出勤前、必ず校舎を見上げる。洋風の煉瓦作りの校舎、ガラス張りの近代的な図書館、広大なグラウンド。それを見ながらマカを飲み干した

 ここは私立王嶺学園。日本の頂点1パーセント、その富裕層の子息のみを対象とした全寮制男子校だ。
 俺はそこでカウンセラーという名目で、トラブル解決全般を専門的に任されている。校内に入り、カウンセリング室という名の俺の城を目指す。
 …トラブルと一口に言っても、万引きやカンニング、盗撮、果ては誘拐に暴力沙汰、いろいろある。さてさて、今日はどんなことがあるか。





 「集まってくれてありがとう」

 昼休み、俺のカウンセリング室には生徒会の連中が集っていた。生徒会と言っても、ここの生徒会。つまり生粋のエリート中のエリート。この学園、いや高校生中の憧れだ。
 が、しかし、今や俺の忠実な僕でもある。

 「今回の案件は、不登校についてだ。不登校になっているのは、2Aの君園御幸。寮から一歩も外に出ないらしい。両親がいじめを疑っているから一刻も早い解決が不可欠。
 なにか、知ってることはないか?」

 学園長から手に入れた資料のコピーを全員に渡す。

 「ふむ、見ない顔だな。Aクラスの寮なら寮長は姫宮だな。後で確認しよう。」

 そう俺の膝の上でふんぞり返るのは、この学園の生徒会長、紫清院帝。あの紫清院財閥の御曹司で、ゆくゆくはそれを継ぐもの。トラブル解決の時にこいつの財力は役に立つ。徹底的な帝王学とプラチナブロンドとキツい瞳。…反面、一度なつくと、猫のようにくっついて離れない。

 「2Aのクラス長に確認しましたが、いじめの様子は見られなかったとか。…信用に値するかは分かりませんが。」

 そう俺にしなだれかかるのは、副会長、九条道行。旧華族の出であり、IQ150近い天才だ。作戦の参謀としても有能である。柔和な笑顔と柔らかい茶髪。こう見えて一番淫乱だから世の中分からない。

 「………なら、部屋、こじ開けますか?直接、聞いて、決着を。」

 そう部屋の隅から視線を送ってくるのは、書記、御劔一真。こちらも古くからの名家の出で、剣道の実力者。荒事の時はとても頼りになる。真っ直ぐな黒髪に寡黙、表情もあまり変わらない。なかなかなつかないが、忠誠心は人一倍ある。

 「んーまだ早いんじゃないかにゃ?とりあえず子猫ちゃんたちに一斉にリサーチかけたけど、失恋とかではないみたーい。」

 そう俺のデスクに乗り上げるのは、会計、神名瀬イチカ。最近躍進を続ける神名瀬グループの御曹司でありつつ、役員。下半身が奔放で、そういった情報は誰より早い。どピンクの派手な髪色、爪の色。いろいろ手間がかかるが、楽しいセックスが出来る。

 「しかし、どうやら悪い連中と一緒にいたのは本当みたいです。西園寺と仲の良かった甲藤が、Twitterで西園寺のことを心配しています。」

 そうタブレットを叩くのが、庶務、辰爾玲。こいつは学園唯一の特待生で庶民だ。その分秀才であり、一般的な判断ができる。猫っ毛の黒髪と、黒縁フレーム。我が儘も言わないから使いやすい。

 ひとまず西園寺の友人という、甲藤という奴に会いに行くことにして解散した。





 「……」

 甲藤に会い話を聞いたところ、最近西園寺の元気がなく、夜中、知らないCクラスの連中といるところを見たきり、部屋から出てこないそうだ。
 この学園は成績、家柄等でクラス分けされており、Cクラスは最下層、成金か馬鹿しかいないと決まってる。気乗りしないが仕方ない、Cクラスに向かおうと廊下に出た。

 「せーんせっ」

 すると、廊下の曲がり角で、携帯を持った手が俺を止める。やれやれ、やっと来たか。

 「いいネタ、持ってきたよ」

 そう言って角から姿を表したのは、学園の新聞部部長、黒羽烏。盗撮、SNSでの諜報、偽の情報の拡散、なんでもやる、ある意味一番有用な人物である。オレンジに染められた髪をカチューシャで止めていて、みるからに噂好きそうな軽薄な見た目だ。壁に烏を押し付ける。

 「いくらだ」
 「んーっとねぇ、へへ、三回でいーよ。せんせい。」

 恥ずかしそうに笑うが、このやろう。全部搾り取る気か。
ため息をついて、烏をカウンセリング室に連れ込んだ。


おわり




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