小説 | ナノ
わたしがその人に初めて会ったのはつい一週間前。わたしがオープニングスタッフとしてわたしの通う朱雀魔導院の近くにあるショップで働き始めた時、ふと店の窓に目をやると、わたしとそんなに歳の変わらない魔導院の制服を着た金髪の青年と目が合ったのだ。その青年がすごい美形で、わたしは思わずびっくりしてその美青年をじっと見つめてしまった。するとその美青年がニコッと微笑んだのでわたしは慌てて目を逸らした。これが初めて会った時。こんなんでほんとに会ったなんて言えるのかどうか怪しいところなんだけど、わたしはそれを初めて会ったと思っている。それから三日後、彼はショップにやって来た。わたしはすぐ例の彼だとわかった。見ていたらまた目が合ってわたしが慌てて目を逸らしたら彼がわたしのところに来たのでわたしは大慌てだ(もちろん、会計をするためだ)。あんまりかっこいいものだからわたしは会計をするような近距離で顔を見れなくて、わたしは始終中途半端な視線でいた。会計が終わるころにこっそり見上げてみたらこれまた目が合って、にこりと微笑まれた。わたしは例によってまた目を逸らした。
それからまた四日後。今に至るわけだが。


「やばい来た。イケメン来たどうしようナギヘルプミー」
「知るか」
「えええマジ助けてえええ会計ミスりたくない代わって下さいいい」
「俺の仕事商品出しだから」
「裏切らないでよう」
「お前の仕事会計だろ!」


ナギはそう言うとさっさと自分の仕事に戻ってしまった。なんて冷たいバイト仲間なんだ… わたしは渋々レジに戻った。仕事をするふりをしながらちらりとイケメンの方に目をやるとイケメンはポーションをいくつか手にしていた。さすが魔導院の候補生ってだけはある。まあわたしもここにはバイトってだけで本業は彼と一緒の候補生なんだけど。だからわたしが魔導院にいる時に会っていてもおかしくないと思うのだけれど、残念ながらわたしは魔導院で彼と会ったことがない。ポーションを手にするイケメンをじっと見ていると、ふとイケメンのマントの色が赤なのに気づいた。赤…赤って0組だったっけ?ものすごい戦闘力のある組だと聞いたことはあるけれど停戦中の今の朱雀では闘技場ぐらいでしか実力を知れないし、わたしは回復系が専門なので闘技場なんてめったに行かないから0組の実力なんて噂でしか知らない。その噂で美男美女が多いクラスだとは聞いていたが…まさかこんなにもイケメンだとは。そりゃ噂にもなるわ。するとナギがわたしに仕事しろと視線を浴びせてきているのに気がついた。仕方ない仕事するか。わたしはナギにはあいと視線を送ると仕事を再開した。とりあえず掃除でもしとくか。ほうきを取り出してささっと店の中を掃く。あ、そういえばわたし0組の人ひとりだけ知ってるわ。確かジャックっていう、へらへらした人。前にナギと話していたら話に入り込んできたんだっけ。まあ確かに彼はイケメンだったがかっこいいとよりかわいい系だ。タイプではない。わたしのタイプはどっちかっていうとそこにいるイケメンみたいな知的な感じの人がタイプだ。その日結局イケメンは何も買わずに帰っていったのでわたしは少しホッとしたが半分残念な気持ちになった。するとイケメンが帰って行ってすぐナギがやって来た。


「あれ、どうしたの」
「いや、つーか今の?お前がいつも言ってるイケメンって」
「そうだよかっこいいでしょ惚れた?」
「惚れるかアホ。ってそうじゃなくて今の知り合いだったぜ。俺の」
「ええええマジで!?」


ナギによると彼の名前はトレイというらしく、ナギの所属している0組のメンバーの一人らしい。ていうかナギ0組だったんだ… そこに驚いたよわたしは。そういえばナギと魔導院で会わないもんなあ。わたしがどういう人なのか問い詰めると、ナギは苦笑いして口数の多い奴だと言った。おしゃべりってことなのか。とてもそうには見えないが。とれいさんのことについて色々話しているとあっという間に上がりの時間になり、わたしたちはバイトが上終った後も魔導院の寮につくまで話し込んだ。今更だけどやっぱりナギとは気が合うなあと再び実感した。ナギとは同じ魔導院の候補生ではあるがわたしたちが初めて話したのはバイト先だし、さっきも言った通りあまり魔導院ではナギと話さない。というか組が離れているせいかあまり会わないのだ。だから話さないというよりかは話せないというのが近い。すると寮の前でナギが「あ」と声を漏らした。


「どうしたの?」
「あー、いや、悪いんだけどよ」


ナギはごそごそと鞄の中から本を取り出した。そんなに厚くないが、そこそこページ数のありそうな文庫本だ。


「これ返しておいてくんねぇかな。クリスタリウムに。俺明日任務なんだけどさ、返却期限明日までなんだよ」
「あーうん、別にいいよ。どうせ明日クリスタリウム行くし」
「わりぃな」
「どういたしましてー。ていうかナギって本読むんだね。ちょっと意外」
「俺だって本くらい読むんですけど」


口をとがらせて言うナギにわたしはあははと笑ってやった。ちらっと本のタイトルを見てみると、「システマチック・ラブ」という黒いロゴで書かれたタイトルと、淡い色使いの乙女チックな表紙が見えた。タイトルから見ておそらくラブストーリーなのだろう。ラブストーリー読むとかなんかちゃらいなと笑うとナギはまた口をとがらせて今度は拗ねてしまった(機嫌なおすの大変だった)。その後教室に用があるらしいナギとエントランスで別れ、わたしはナギが渡してきた本を鞄にしまうとまっすぐ自分の部屋へ戻ると大人しく寝た。久しぶりのバイトで疲れていたのかすぐに寝付けた。












翌日の昼。本を何冊か借りようとわたしはクリスタリウムに向かっていた。今日は午後の授業がないので午後は暇になるので暇つぶしに昼食を食べながら本を読むことにしたのだ。本を借りるついでに昨日ナギに頼まれた本を返すつもりだ。この乙女チックな本を持ち歩くのは少し気恥ずかしい気がしたので別の本と本との間に入れて隠して運ぶことにした。別にわたしくらいの歳の女の子がラブストーリーを読んでいたってなんら問題はないのだが、どうも柄じゃないというか、わたしが持っているのはやはり気恥ずかしい気がしたのだ。わたしが読む本は主に歴史物だったりファンタジーだったりすることが多いのでこの本をわたしがもっているのは少し違和感を感じる。
教室から魔法陣に乗り、エントランスに移動した。数十メートル前にはクリスタリウムへ続くドアが見えた。迷わずにまっすぐそこへと足を踏み出すと、横から現れた誰かに強くぶつかってしまった。

「わっ!」
「おっと、」


転びはしなかったものの、ぶつかった拍子に持っていた本を落としてしまった。あのラブストーリーも合わせて五冊はあったが、全てたいして重くない文庫本だったので足に当たったがたいして痛くはなかった。慌てて落ちてしまった本を拾い上げようとわたしが屈むとぶつかってきた人も本を拾おうとしてくれているのか屈んできた。


「大丈夫ですか?」
「ああ、はい、大丈夫で…」


顔を上げてぶつかってきた人の顔を見た瞬間思わず固まってしまった。なんとその人はあの金髪のイケメンだった。確かトレイとかいう名前だったっけ。イケメンもわたしを見て目を丸くしていた。もしかしてわたしの顔を覚えているのだろうか。わたしが唖然としているとイケメンから口を開いてきた。


「あなた、ショップの…?」
「あ、こ、こんにちは」


慌てて開いた口から出てきたのは焦燥の混ざった挨拶だった。ここははいとか肯定の言葉を言ったほうが良かったのではないだろうな。しかしわたしの心配はどうやら杞憂だったらしく、イケメンはにこりと微笑んできた。綺麗な顔で微笑むもんだからわたしの心臓はどきりと高鳴った。


「申し訳ない。拾いますね」
「あ、ありがとうございます」

お礼を言ってわたしも落としてしまった本を拾おうとしたのだが、イケメンがささっと拾ってしまうものだから一冊も拾えなかった。「ご、ごめんなさい、ありがとうございます」拾ってもらった本を受け取ろうとすると、イケメンが拾った本の一冊をじっと見つめていた。首を傾げてイケメンが手に持っているいる本を見てみると、なんとそれはナギに渡されたあの例のラブストーリーだった。なんだか急に恥ずかしくなって早急に本を返してもらおうと口を開きかけた時、イケメンが口を開いた。


「あなたも読んでいるんですね。この本」
「えっ…」


見ると、イケメンの手にあのラブストーリーがあった。慌ててもう片方のほうの手を見ると、もう一冊、あのラブストーリーと同じものが。つまり、イケメンはわたしが持っていたあのラブストーリーと同じ本を持っていた、ということらしい。
どうやら彼はわたしが自分とおなじ本を読んでいる共通の人間だと思ってしまったらしい。わたしはただ、ナギに頼まれて持っていただけなのに。しかし彼はわたしが今まで憧れてきたあのイケメンだ。今も話しかけられてすごい嬉しいし、緊張している。けれどもここで誤解ですというのはイケメンとの共通点を自ら逃してしまうことになるし、なによりイケメンは嬉しそうな顔をしているし、あまりにも言いづらい。どうしようと焦っていると、幸か不幸かイケメンが優しく微笑んで言った。


「よろしかったらこの後、昼食をご一緒しませんか?」


わたしの中に断るという選択肢はなかった。














その後わたしとイケメン改めトレイくんは一緒に昼食を取った。あの本の話を聞かれたら答えられないどうしようと若干焦っていたのだが、どうやらその心配は要らなかったようだった。なんせ食事中、会話のほとんどごトレイくんの独走だったからである。ナギがトレイくんを“口数の多い奴”と言っていた意味がわかった。なんせトレイくんは単語ひとつに数分かけて説明するような人だったのだ。別に人の話を聞くのは嫌いじゃないしむしろわたしは好きなので、トレイくんの話を聞くのは苦ではなかった。
それからわたしはトレイくんが読書好きだということを知り、クリスタリウムによく行くようになった。純粋に本を読みたいというのもあったけど、半分くらいはもしかしたらトレイくんに会えるかもという下心というのもあった。そしてそのわたしの淡い期待は見事に叶い、トレイくんとわたしはどんどん仲良くなっていった。クリスタリウムで本を読む時、隣にトレイくんがいるのが当たり前になってきて、むしろ隣にトレイくんがいないと違和感を感じるほどだ。すると必然的にわたしとトレイくんが一緒にいることが多くなっていき、友達に付き合ってるのかと聞いてくる娘がちらほら現れ始めた。トレイくんはその口数の多さから彼を苦手としている人も多いそうだが、そうじゃなくても彼は美形だ。そんなトレイくんとよく一緒にいる女の子が現れたら誰だって気になるだろう。残念ながらわたしとトレイくんは付き合ってはいない。トレイくんにわたしなんかは釣り合わないし、せっかくトレイくんかっこいいのにわたしなんかじゃもったいない。他に可愛い女の子はたくさんいるし、彼女たちの方がトレイくんにお似合いだ。実際誰かは忘れたが、どこかの組の可愛い女の子がトレイくんのことをかっこいいと言っていたのを聞いた覚えがある。
そうは思うものの、少なからず羨ましいなと思う気持ちがないことを否定は出来なかった。多分、わたしはトレイくんが好きなのだ。こればっかりはしょうがないと思う。なんたってトレイくんはかっこいいし、わたし前から憧れていた人だ。そんな人と仲良くなって、好きにならない方がおかしい。
そんなことを考えながら、授業が終わったのでいつも通りクリスタリウムに行き、座って本を読むふりをしながらボーッと考えていた。
もしもトレイくんにもし彼女が出来てしまったら…と考えると、やっぱりさみしいと思った。でもトレイくんなら、「こんにちは。実は彼女ができたんですよ」とか言い出してもおかしくない気がした。そしてそもそも恋人というのは…とお得意の広く深い知識を披露しようと長く話し始めてしまいそうである。だがあり得ない話ではない。今はそんな様子を見せてはいないけれど、いつかは… そう思うとため息が出ずにはいられなかった。持っている本を机に置くと、わたしははあーっと深くため息をついた。するとタイミング良くわたしの隣の席の椅子が引かれ、机の上にぽんと本が置かれた。まさかと思って見るとトレイがいつもの優しい笑みを浮かべて椅子に座っていたもんだからわたしは心臓が飛び出たんじゃないかと思うくらい驚いた。


「と、トレイくん」
「ため息をついていたようですが、悩み事ですか?」
「え、えぇと、違くって。ただなんか本読み過ぎて肩凝ったなあって思って」
「肩凝りですか。それならーーーー」


トレイくんのお得意のお喋りが始まったので、わたしはは気持ちを切り替えて彼の話を聞くことにした。余計なこと考えるのはやめとこう。なんだか不自然な態度をとってしまうから。
ふと、トレイくんが説明をやめてそういえば、とわたしに視線を向けて来たのでわたしは首を傾げた。


「名前さん、この後時間はありますか?」
「暇だけど。なにかあるの?」
「買い物に付き合ってもらいたいのですが…」
「うん、いいよ。どこまで?」
「近くのショッピングモールまでですが、大丈夫ですか?」
「うん、どうせ暇だから。ところでなに買いに行くの?」
「矢を新調しようかと思いまして」
「矢かぁ…」


そう言われて、トレイくんの武器が弓だったのを思い出した。一度トレイくんが弓を引くのを見たことがあるが、彼の綺麗に弓を引くフォームと、真剣な眼差しの横顔を見て、わたしはとても美しいと感じたのを良く覚えている。あれでものすごい破壊力の攻撃を繰り出すのだ。それを見た時わたしは惚れ直してしまったくらいだ。
トレイくんに今から行くのかと訪ねると、名前さんが本を読み終わったらにしましょうと提案してきたのでわたしは慌てて今すぐ行こうと新たに提案した。わたしは本を読むのが遅い。わたしが読み終わるのを待っていたら日が暮れてしまうだろう。トレイくんはわたしに気を遣って読み終わったらでいいですよと勧めてきたが、わたしは後でゆっくり読みたいから、と言うとやっと諦めてくれた。
トレイくんの言っていたショッピングモールというのは最近魔導院の近くに出来た色んな店が並ぶ通りのことである。わたしのバイト先もこのショッピングモールにあるのでわたしにはわりと馴染みの深い場所だ。
わたしが本を借りて、わたしとトレイくんはショッピングモールへ向かった。わたしたちが着く頃にはショッピングモールは候補生たちで混み合っていた。ちょうど午後の授業が終わった時間帯だったのでみんな寮に帰る前にショッピングモールで遊んでおこうという考えなのだろう。わたしたちは違ったが、それでも混雑なのは変わりなかった。結構混んでるね、とわたしがつぶやくように言うと、トレイくんははぐれないように気をつけて下さいね、と言ってくれた。わたしは気遣いが嬉しいと思いながら頷いた。
まずトレイくんが先頭を行って、わたしがそれに続くという進み方をした。トレイくんは長身だから人ごみの中でも良い目印になりそうだ。そう思ったのだか、どうやらそうもいかなかったようだった。いくらトレイくんの身長が高いと言っても人が多いとはぐれてしまいそうになる。わたしは何度もトレイくんとはぐれてしまいそうになった。
すると急にトレイくんが止まるものだからわたしはトレイくんの背中に激突した。


「うわっ」
「す、すいません。大丈夫でしたか?」
「あ、うん。大丈夫。急に止まってどうしたの?」
「ああ、いえ、あの…」


トレイくんは何事がもごもごと口の中で言葉を詰まらせた。口ごもるなんて、トレイくんにしては珍しい。わたしが珍獣を見るような目でトレイくんを見ていると、トレイくんがわたしに聞こえるか聞こえないか小さな声でなにかを言った。けれどわたしには聞き取れなかったので首を傾げてトレイくんに聞いた。


「ごめん、なんて言った?聞こえなかったや」
「ああ、あの、よかったらなんですが…」


手を、繋ぎませんか。
言われた瞬間どきりと心臓が痛いほど飛び上がった。驚いてなにも言えずにいると、トレイくんが慌てたようにこうも人が多いとはぐれてしまいそうですからと恥ずかしそうに言って、一瞬にしてわたしの期待は砕け散った。どうやら自惚れだったらしい。そしたら急に自分が恥ずかしくなって下を向いてしまった。すると視界にトレイくんの手が差し出されたのが見えた。自惚れだとは思いつつも、期待せずにはいられない。だから、この差し出された手を断ることなんか、出来やしないのだ。
わたしがそっとその手に自分の手を重ねて、顔を上げると、優しく笑うトレイくんと目が合った。胸がどきどきしているのがわかった。恋って、こんなに甘くてどきどきするものだったっけ。トレイくんはわたしの手を引いて歩き出した。今度ははぐれる心配はなかった。
それから数分でトレイくんのお目当てのお店に辿り着いた。さすがに店についた頃には手は離したが、帰りにショッピングモールの人ごみがなくなって手を繋ぐ必要がなくなったら、と考えたら手を離すのが名残惜しかった。だけど離さない訳にはいかないので大人しく手を離した。トレイくんと入った店は武器の専門店のようで、たくさんの武器が飾ってあった。わたしはその多さに圧倒されたが、魔法、さらに言うと回復系が専門のわたしはあまり馴染みがないので正直あまり興味はなかった。一方トレイくんは迷わず弓矢がたくさんあるコーナーに向かって新調する矢をえらんでいた。わたしは隣でトレイくんの弓矢に関する話を長々と聞くぐらいしか出来なくて少し悔しかった。わたしが1組とか2組で、武器を使って戦う候補生であったなら、トレイくんと武器について語り合えたりしたかもしれないのに。わたしはトレイくんの話を聞いてあげることしか出来ないのだ。
トレイくんはしばらく悩んでいたが(その間もずっと弓矢について語っていた)、どうやらお気に入りの矢を見つけられたようで買ってきますねとレジに行った。
その間暇だったので店の中におまけ程度に売ってあるキーホルダーやらを見ていた。女の子向けであろう、ぬいぐるみやキーホルダーが置いてあった。ふとその中の、モーグリのぬいぐるみが目に止まった。あ、ちょっと可愛いかも。手に取ってみると両手に収まるくらいのサイズのモーグリはやっぱり可愛くて、わたしはつい顔をほころんだ。


「欲しいんですか?」
「あ、ううん、ちょっと気になっただけ」
「モーグリのぬいぐるみですか…」


トレイくんはわたしの手からモーグリのぬいぐるみを取ると、にこりと笑って「買いましょう」と言ったのでわたしは一瞬呆気に取られた。


「い、いいよいいよ!ちょっと気になっただけだから、気にしないで」
「いえ、今日は買い物に付き合って頂いたのでそのお礼に」


わたしは何度も大丈夫だと食い下がったのだか、私が買いたいんですと言われたらもうなにも言えなくなってしまってトレイくんにモーグリのぬいぐるみを買ってもらうことになった。悪い気もしたが、なにより嬉しかったのでわたしはありがとうと何度もお礼を言った。
ぬいぐるみを買ったあと、矢の試しに射ってみたいと闘技場に行くとトレイくんは言ったので、わたしは自分の寮に戻ることにした。トレイくんと少しでも一緒にいたかったけど、わたしは戦闘とかそういうのに疎い。だから闘技場について行っても、わたしがトレイくんにしてあげられることはなにもないのだ。だからここは大人しく寮に帰ることにした。