▼ 2.りゅうたん
ぞわわ、と鳥肌を立てるランを無視し、ヌーナも、ふと、レンズとともに窓の外の果実を見つめる。
毒を帯びた果実を食べにきたらしい。何らかの黒いドラゴンっぽい生き物が、喜びに満ちた目で、果物を貪り始めているのが見えた。厳つい顔をした、ひと目見ただけで背筋が凍りそうな神竜で、ときどきこの地域を飛んでいる。
「……りゅうたん、今日も毒々しい食べ物にありつけて良かったね……」
「あの毒は《ああいう》生き物には効かないのよ。きっと」
「レー様は、心が清らかだからダメージをくらうのね……」
ヌーナは、答えない。
先ほどの口汚い二人の喧嘩を思い返してから、曖昧に笑っただけだ。
ランは、そんなやりとりの中で気を取り直すと、今日も、窓辺に置いた、小さな鉢植えに話しかけ、壁にかけていたじょうろで、水をわずかに与える。
「親友」なのだという。
彼は、ずっと『親友』が、顔を出すのを待っているらしい。
ヌーナは当初、それを聞いたとき、「なんだこいつ……」と容赦なく思っていたものだが、あまりに真剣な彼を見ているうちに、本当に『親友』なのだろうと、思えるようになった。
「親友は、『種』になってしまった。だからおれは、守って、待っているんだよ。ずっと──あいつが育つのを」
それが、彼の言ったことだ。その正しい意味は、彼にしかわからない。だが、彼は自分のことをあまり話したがらないので、誰も聞けずにいる。
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