▼ 16.魔女の海の話
「しかしなぜ戻ってきた?」
いきなり、間近で聞かれて、ランは思わず『うわああああ』と声をあげ、後ずさった。びっくりした。
パールは無表情のまま彼を見下ろして「ふむ、爪が綺麗だな。狩りはまだしていない……」と分析する。
「ほっとけ!」
むっとして、再び森に歩きだしたランは、今度こそ付いて来られないようにと、木に飛び乗った。
「お前の呪いは、その耳なのか? それとも──右足?
」
パールは、ぽつりと呟くと、神殿に戻り始める。だんだん強くなってきた日光も苦手だ。
「──よし、風呂だな……」
確か水道水は、近くの茂みで、温泉がわりにと、昨日の夜に風呂桶いっぱいに汲み置きしておいた。一日置いた水でないと、カルキの影響が怖いのだ。
水浴びを期待して、とりあえず、まずは報告しておこうと家の中に入るパールは、そのときふと、目にした。
本棚のすぐ下の床に、『大陸と、呪いの魔女』の描かれた絵本が落ちているのを。絵では、魚人族のものらしい鱗が、たくさん、魔女の服に縫い付けられていた。
そしてそのための魚人を捕まえる際、鱗が目に入ってしまったことを怒り、一人の魔女が呪いをかけたという海域も、描かれている。
自分の故郷だ。
「ふむ。たしか、リライト エルなんとか……と言ったか。あの魔女は、載ってないようだな……」
本を拾い上げて埃を払う。
「呪い、か……あの『半分生きた植物の足』を見るに──この森も、呪われているのだろう。どこかに、呪いを解く手がかりがないものか」
海藻が食べられなくなるのは嫌だ。海が汚染されるのも、さらに耐えられない。どうにか、故郷を深く呪いが支配する前に、見つけ出したいと思った。
呪いたち-第1幕 完
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