10.呪いの森の少女

 魚人族を見て、ヌーナは驚き、果実のように鮮やかな橙色の髪、のてっぺんにある緑のバンダナを、勢いよく揺らした。

「ぎ、魚人っ!?」

パールは、対抗するかのように輝く白髪を揺らし、そして跳び跳ねた。

「ああ驚いた、生き物を食べる珍しい人型植物──の家系の者に、似ているな。」
「あら。ご存知なの?」

ヌーナがおどけたように言う。彼は頷いて話した。

「昔、魔女の住む森で、見たぞ。若いときは、根付く場所を探して──人間のような形をしており、知性があるが、根付くと木になり、やがて森を作りあげるんだ。同じ血を持つ仲間が惹かれて、同じ場所に根付いていくらしい」

ランは、その話に思うところがあるのか、やや、耳を立てて聞いていた。気になる話が聞こえると、無意識に、頭に隠している獣の耳が立つのだ。
こちらの耳には聴覚は通っていないはずなのだが──しかし、いずれは、人間としての聴覚をなくしていき、代わりにこちらの耳が、声を、音を拾うようになるのでは、と予感している。

(母さん……)

ふと、母を思い出した。人間の母親が居た。彼は人間だった──はずなのに、実はそうではなかったことを知ったのは、10歳のときだ。

 それから、人間と隔離された感情と向き合わなければならなくなり、母にも、別れをろくに告げずに、森に居着いてしまった。

──彼は、もう元の生活に戻ることができない。人間の暮らしは、今の彼にはあまりに尊く、手にはいらない。

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