▼ 8.彼の名前は
「パールだ」
「おお、パール!! それっぽい!」
「……魔術師見習い。少しおしとやかに喋れ」
うるさいのが苦手なのか、耳を押さえながらパールが言う。ランは、慣れていたので今さらなにも思わなかったが、パールにはあまり好ましくなかったらしい。
「……ラン、助けろ」
眉を寄せて、パールがランを見る。艶やかな髪が、ふわりと潮風を漂わせて揺れた。レンズは、よくわからないがパールを気に入ったらしく、体のあちこちをつついている。
「ねーねー、性別とかある? あるならどんなの!?」
「……僕は、クマノミと同じだ。変わるときには変わる」
「ふーん。今は?」
「……特には固定されていないが、そうだな──」
「クマノミってなに!?」
「──魚、だ……」
なんだか頭を抱えるパールを見ながら、ランは思わず笑って、言った。
「──たしか海にいる魚だな。おれも見たことはないが、本で読んだ。レンズはずっと部屋にこもって、薬を調合していたから、あまり興味がないのか」
「へぇ、海の魚なんだ」
レンズは、曖昧に頷くと、再びパールに近づく。
パールがほぼ裸なことを、再び思い出して、彼女はうーんと唸った。
「服着ない?」
「なぜだ」
「だって、陸に出るんでしょ。毒の調査に来たんなら、歩いてみたら? なにか、見つかるかも」
「なぜ、陸に出るために服を着るのだ?」
「裸じゃ、風邪をひくよ!」
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