8.彼の名前は

「パールだ」

「おお、パール!! それっぽい!」

「……魔術師見習い。少しおしとやかに喋れ」

うるさいのが苦手なのか、耳を押さえながらパールが言う。ランは、慣れていたので今さらなにも思わなかったが、パールにはあまり好ましくなかったらしい。
「……ラン、助けろ」

眉を寄せて、パールがランを見る。艶やかな髪が、ふわりと潮風を漂わせて揺れた。レンズは、よくわからないがパールを気に入ったらしく、体のあちこちをつついている。

「ねーねー、性別とかある? あるならどんなの!?」

「……僕は、クマノミと同じだ。変わるときには変わる」

「ふーん。今は?」

「……特には固定されていないが、そうだな──」

「クマノミってなに!?」
「──魚、だ……」

なんだか頭を抱えるパールを見ながら、ランは思わず笑って、言った。

「──たしか海にいる魚だな。おれも見たことはないが、本で読んだ。レンズはずっと部屋にこもって、薬を調合していたから、あまり興味がないのか」

「へぇ、海の魚なんだ」

レンズは、曖昧に頷くと、再びパールに近づく。
パールがほぼ裸なことを、再び思い出して、彼女はうーんと唸った。

「服着ない?」

「なぜだ」

「だって、陸に出るんでしょ。毒の調査に来たんなら、歩いてみたら? なにか、見つかるかも」

「なぜ、陸に出るために服を着るのだ?」

「裸じゃ、風邪をひくよ!」

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