ぜんぶきみのせいなの(♀) | ナノ




※高校生パラレル
※静雄の片思いです
※女体化ですがいつも通り俺で臨也
※いろいろおかしい
※何があっても許せる方のみどうぞ








陶器のように白い肌、純度の高い天然石のように曇りなく透き通った瞳、すらりと伸びた細い脚に艶やかで芯のとおったしなやかな黒髪。まばたきをするたびに音を響かせそうなほど長いまつげ。

まさに天使だ。世の中の基準がどうであろうと構うものか。少なくとも俺にとってはそう、天使そのものだった。

くり返す毎朝、通勤通学時間のピークに近い人でごった返す駅前で、いつも俺は彼女とすれ違う。ブレザーの制服は有名な進学校のものだと、クラスメイトの門田が教えてくれた。すでに天使なのに頭がいいとか何なんだそれは、いっそ神様か。程々の学力で無難と位置付けるに等しい高校に通っている俺からしてみたら、それですら言い過ぎということもないだろう。何せ学力というやつは金で買えない。

ひたすら憧れ続けた。彼女のどこがどう良かったとかそういう問題ではない、ただ天使だったのだ。一目見た瞬間そう思っただけで、はっきり言えば後は何も考えていない。

ただ真横を通り過ぎるだけ、門田に言わせれば言わばだったそれだけのことだ。毎朝艶のある黒髪がなびく様子を横目にして、それだけが俺の一日のすべてと言っても間違いではない。

羽が生えていないだけの俺の天使は、その呼び名にふさわしいほど手の届かない存在だったし、もちろん最初はその姿を眺めているだけでばかみたいに幸せだった。

そう、だからこそ、まさかこんな状況が訪れることになろうとは、俺はおろか神様だって予想していなかったに違いない。いや神様は寧ろ目の前の彼女がなりかけていたところだったから多分違う。まぁそんなものは誰だっていい、居ても居なくても構わないし現に今となってはそんなものすら最初っから存在していなかった気がする。

何故なら今さっき言い掛けたように、その彼女はいま、俺の目の前に立って恐ろしいほど真っ直ぐにこちらを見つめているのだから。



「いやぁ、しかし懐かしいなぁ。毎日駅ですれ違ってたなんてこれも何かの縁かな?」

「まぁこれだけの人じゃあ中々気付くのも無理な話だな。全然気づかなかった」

「はは、本当にね」



まるで老人同士のような会話のやり取りは、俺が毎朝何となく通学を共にしている同じ高校に通うクラスメイトの門田京平と、彼女の制服と同じタイプのものを身に纏った眼鏡の男とのものだった。名前はキシタニ、たぶん門田はそう呼んだような気がする。

今日も今日とて俺は彼女と駅ですれ違い、いや間違った、すれ違っていない。その姿がちょうど俺たちの真横に差し掛かった辺りで、門田が彼女の横に並ぶ眼鏡の男に対して声を掛けたのだ。あれ、キシタニ?と。


「なに、新羅の友達?」


そう、まさか過ぎる事態だった。そういやこのメガネの男はいつも彼女の隣に居たような気がする。はっきり言ってよく覚えていないと言うか何と言うか、要するに彼女のことしか見ていなかった自覚は大いにある。なんか近くにぼんやり眼鏡があったような無かったような、記憶はどこまでも曖昧だった。

ちなみに今声を発したのは、俺がこの数か月間延々焦がれ続けた彼女本人である。こんなにもはっきりした声を聞くのは初めてのことだった。ブレザーのポケットに手を突っ込んできょとんとした表情で小首を傾げ、眼鏡の男に問い掛けている。


「ああ、うん。小学生のころ通ってた塾が一緒だったんだ。門田京平くん」

「へぇー……」


どーも、そう呟いて門田が軽く会釈をする。俺は一メートルにも満たない距離に彼女が存在しているという事実を未だきちんと受け入れることができず、脳内が若干フリーズ状態のままその場に静止していた。


「どうも。おれ新羅の幼馴染で折原臨也って言います。よろしくね」

「俺は門田京平。で、こっちが同じクラスの平和島静雄」


親指で指し示して貰えたけれども、俺は上手く言葉が見付からずただぽかんと、口を薄く開いた状態のままで依然固まっている。


「おい、静雄」

「…………え、」


ぐい、と肘で横から突かれて、はっと我に返る。ちらりと門田を伺うといいから何か喋れ、と目が必死に訴えかけているのがわかった。

そう、俺が彼女に一方的に憧れていることを門田は知っている。だからこの自分の古い友人と彼女がつながっていたという奇跡的な事態をどうにか有効活用しろ、と言いたいのだろう。頭のよくない俺でもそのくらいはわかる。

しかしこの場合幾ら何でも急すぎる。俺はそもそも彼女と口が利けるような状況など妄想の中でくらいしか有り得ないと思っていたのだ。と言うか有り得なさすぎて妄想ですらシュミレーションできていない。そのくらいには非現実的な場面だった。

口はとりあえず開いてはいた、いたけれど喋るためではもちろんなくて、呆気にとられていただけのただの反射だ。一先ず門田を見て、彼女を見て、もう一度門田を見たけれどやっぱり彼女に視線を戻した。

これは夢か?さてはまぼろしかはたまたそれ以外の奇跡か?思わずそんな風に考えずには居られないほどありえない距離だ。目の前で俺を見つめる彼女は、その長い睫毛を揺らしながらこちらを見上げている。

とは言え何を口にすればいい?名前、いや名前は確か門田がもう言った。くそ、どうせなら名前は自分で言うからとっておいて欲しかったものだ。逆にいまこの状況で俺は一体何を口にしたらいい?


「あ、の」

「………うん?どうかした?」


接続するための妙な音ですらどもってしまい、ますます俺は不審者と化してしまっている気がする。それでも今度はくい、と反対の方向に首を傾げながら彼女が俺を見つめて来る。視線が合っている、たったそれだけの事で今すぐにも息が止まってしまいそうだった。

そうじゃない、これはきっと、いや神様はいないけれどそれならば門田がくれたチャンスだ。もしかして神様は門田だったのかも知れないそれならば納得がいく。それこそ有り得ねぇけどもうこの際何でもいい。さっきから延々何に置いても投げやりな気がするけれど致し方ない。

いまだ、何でもいいからもうこの思いの丈をどうとでもいいから、ほんの少しでもいいから俺の好意を、せめて印象に残る程度の記憶で構わないから彼女に植え付けたい。何よりの本音が頭の中いっぱいに駆け巡る中、やっとの思いで息を吸い込んで口を開く。その結果口から出たのがこれだった。




「おれ、は」

「なに?」










「お前のためなら死ねる!」





しん、と一瞬周囲から音が消えた気がした。電車のアナウンスは遠くのほうで聞こえていた気がしたけれど、ゆうに三十秒程度は少なくとも俺を含め四人の中に、言葉らしい言葉は生み出されることなく沈黙ばかりが辺りを漂っている。

あれ、なんか、あれ、もしや何かとんでもないことを口走ってしまったのだろうか、と自覚したころ。隣で門田は額に手を当てて天を仰ぎその表情は伺う事はできず、斜め前の眼鏡は笑顔のまま硬直して結果笑ったような状態でいる。

そしてそのとなり、つまり真正面で天使はぽかんとした表情でいまだ俺のことを見上げていた。やらかしてしまったような気がしたのは、誰ひとりとして普通、とは言い難い反応ばかりを示していたからである。ある意味で俺だけが唯一の普通と言える状態だったのだけれど。

それでも周囲に人は行き交う。遠くではホームに鳴り響くメロディーが鳴り響いていた。ざわざわと騒がしい駅の光景も音も何もかもがいつも通りのなか、それでも俺の半径一メートルはだけは明らかに普通ではない。

するとそれまでただ呆けていた彼女の口元がゆるりとそのかたちを変える。ゆっくりと弧を描き、目を細めてそのまま綺麗な微笑みを形成した。心臓の音がうるさい、ばくばくと耳の後ろで有り得ないほどの音が響いている。血が沸騰してしまったみたいだ。

くちびるはゆっくりと動いて言葉を紡ぐ。今度はまた俺の方が呆気にとられてしまう台詞を、天使は見たこともないような笑顔で告げるのだった。








「じゃあ、とりあえず死んでみて?」




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NICO Touches the Walls「妄想隊員A」を聴いてこんな静雄かわいいなぁって

かわいいなぁって 



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