01 | ナノ





※この夏に発売される予定の
※静雄フィギュアの画像をじっと眺めた結果
※この標識マドラーだったらかわいいよねって
※つまりちっちゃい静雄が出てきます
※フィギュアの等身かわいい
※やずやさんが書いたら描いてくれるって言った
※「紅茶王子」のパロディです
※強引さがとてつもない
※意味がわからないので心の広い方のみどうぞ






まどしず!




その謎めいた雑貨に立ち寄ったのはほんの気紛れだった。

池袋の路地裏、ひっそりと佇むそう広くない店構えから期待を裏切らず、その中もまたそれなりに手狭さを誇っている。異人めいた独特の顔立ちの女性店員がレジのカウンターに腰を落ち着けていて、店に俺が足を踏み入れた瞬間、いらっしゃいませと綺麗な響きで以て歓迎されたのか、何もかも全ての始まりだった。

怪しげな土産物まがいのインテリア用品から、食器や鞄や何に使うのかも怪しいやたらと派手な柄の布の数々。店に並ぶ品々はほんのひととき、ここが池袋であるということを思わず忘れてしまいそうになるほどに不思議なものばかりだっだ。
立ち寄ったのはあくまでただの気分だ、断じてここに大事な用件があったわけでもなんでもない。それが故に人気のない店内をただぶらぶらと歩きまわるだけになり、さて困ったとここで俺は、ようやく自分のらしくなさ過ぎる行いを後悔したのである。

いやいいんだけど、別にいいんだけどね何も買わないで店を出ようが出まいが。そんなのは結局個人の自由で大いに構わないはずだ。それなのにどうしてか俺は、柄にも無く何かを買わなければこの店を後にできないという、実に妙な感覚にただひたすらに支配されていた。
おかしな話である、頭の端ではそんなわけあるかと思いつつ、それでも意志に反して俺の瞳は、何かちょうど良いものはないかと辺りをきょろきょろと彷徨い続けている。

ふと、陳列棚の上で籐でできたの小さなカゴに区分されていた食器類に目が留まる。この辺りなら買ってしまっても、用途において買ったきりでそのままおざなりになったりだとか、買わされてしまった妙な敗北感に浸ることもないだろう。恐らくは、だけれど。
どれにしようかと順に目で追って、やがてマグカップの中に無造作に放り込まれている、色とりどりのマドラーの存在に視線がゆるやかに停止する。綺麗な薔薇や冠の細工が施してあるものや、一見チープそうなプラスチック製を思わせる一本。ふぞろいなものを纏めて一か所に集めた雰囲気が見て取れた。

一本だけ、その個性的な面々の中でも、更に異色さを纏ったものに手が伸びる。かちゃ、と触れたマドラー同士が音を立てた。
それは一言で言うなら、あれだ。わかりやすく言うなら道路標識のモチーフがついている、一見マドラーなのかどうかも怪しい見てくれのものだ。

パーティの笑いを取る景品じゃあるまいしと思ったが、どうしてかそれを手にした瞬間、俺は最早頭がいかれてしまったとしか思えない台詞が、勝手に口を切ってしまうことを止めることができなかった。


「これ、ください」





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そんなちょっとした不思議体験がつい三日ほど前の話。逆を言うなら怪しい店で怪しいマドラーを購入してから三日経った朝、特に外出の用事もないというのに、意味のない早起きをしてしまった俺は、ひとまず朝のコーヒーを入れることにした。

コーヒーメーカーから真っ黒な液体をなみなみと注ぎ、専用のミルクをひとつ、ぱきんと蓋を割ってからたらりと中身をコーヒーの中へと垂らす。ぐるりと液体同士が融和して行く状態のまま、掻き混ぜるものをと立てかけられた食器に手を伸ばした。そこでスプーン類と一緒のその中に並ぶ、あのマドラーにふと目が留まった。

そういやこんなもの買ったな、と僅か三日前の曖昧な記憶を手繰り寄せてはみたが、しかしあくまでそれまでだ。第一これを買うために、差し当たって特別な理由なんてものは確実に存在していない。自宅で飲む趣味も無かった。だからこそあえて、見た目が不格好なそれを選んで手に取る。

マドラーって確かカクテルとかの類を混ぜる用途だったと思うけれど、まぁいいか。コーヒーカップにはいささか長めの尺ではあるが、目的は混ぜることだけなので気にはならない。
それでもやはり、マドラーに一旦停止の標識って一体どういうつもりなんだろうか。酒の飲み過ぎがどうとかそういう意味だろうか?いや、本当にそんなことは凄くどうでもいいのだけれど。

寝起きのおぼつかない思考回路は実に下らない考えばかりを繰り返す。ぐるりとマドラーを回して白いミルクがコーヒーの中に円を描いた、その時だった。

ぼふんという古典的な効果音と一緒に、視界は瞬く間に真っ白い煙に覆い尽くされてしまう。余りに唐突なことにその瞬間ばかりは爆発、という物騒な単語が頭の端を過った。けれどしかし、このキッチンに爆発物らしきものは存在していない。殻つきの卵をレンジで温めてた記憶だって勿論ない。


「……っ、けほっ」


煙い、何かよくわからないけど煙い。それと何だか匂いが甘い。何だこれは。

ばらばらの情報を頭の中で整理しようと試みても、取り敢えず何も見えないことには話にならない。俺は手で払うように煙を仰いで、目の前で一体何が起こったのかを把握することに必死だった。


かしゃかしゃ、かしゃかしゃ。

やがて薄くなって行ったミルク色の煙の向こうで、どこかで聞いたことのある音が聞こえた。酷く聞き慣れた音だ、そう、まるで何かを掻き混ぜているようなそんな音。バーベキューじゃあるまいし勘弁してくれこの煙、マンションの火災報知機が反応したらどうしてくれる。一際強く手を振り払い視界が開けた瞬間、そこには思わず自らの目を疑う光景が存在していた。

かしゃかしゃという音の犯人は判明した。俺がコーヒーカップにぶち込んだはずのマドラーがぐるぐると中身を掻き混ぜて回っているその音だ。けれどそんな全自動式の近未来的なマドラーを手に入れた覚えは全くない。要は単純に言うなら「回っている」のではなく「回している」誰かがそこに居る。

標準的なペットボトルほどの高さだろうか、実際に測ることはできないのでアバウトな感覚での推測だ。そのくらいの「何か」が、先程のマドラーを握り締めてぐるぐるとコーヒーを混ぜている。

金色の髪の毛に、服装はどうしてかバーテンのデザインの物を身に纏い、目元には青いレンズのサングラス。

何かと称したのは事実、それが何かわからなかったからだ。人っぽいけれど、人じゃない。何故なら俺はこんな規格の人間の存在を見たことが無い。まさに人形サイズだ、小さいころ女の子が着せ替えなんかをしていたおもちゃの何とかちゃん人形。それでも人形ではない。何故なら人形ならこうも機敏に動いて、ましてやコーヒーを混ぜるなんてことは有り得ない。

かしゃかしゃと回し続けていた動きがぴたりと止まり、小さな頭が上向いて、俺の視線とサングラス越しの視線がぶつかった。





「…よぉ」


何が?とここで突っ込む気が起きなかったのは、不覚にも喋ったことへの驚きの方が勝ってしまったからだ。ますます人形説が薄れて行く中で、俺は出なくなってしまっていた声を何とか絞り出し、その目の前の小さな存在に意を決して声を掛ける。

「…………虫?」

「誰が虫だ!殺すぞ」

「うわぁ………どうしよう。言葉が通じるとかドン引き…」

「ああ?俺を呼びだしたのは手前だろうが!」

どうしてそうなる、俺はこんな新種の虫もしくは次世代の最新未来型おもちゃのような存在を自宅に呼び付けた記憶などは一切ない。現に俺は特別なことは何もしておらず、敢えて言うならコーヒーを一杯飲もうと試みたくらいだ。

「ったく………おら。できたぞ、飲め」

かん、とマドラーで一度カップの端を叩き小気味いい音を立ててから、その小さな存在は俺にカップの中身を勧めてきた。が、とてもじゃないが状況は先程とは一変している。コーヒーを飲んでいられる優雅なひとときや余裕など、ほぼ皆無に等しかった。

「あのー………」

「なんだよ。冷めるぞ」

「それはどうも」

「コーヒーはぬるいと不味いからな。熱くても苦いから飲まねーけど」

「…君は一体、なに?」

標識のかたちのマドラーを肩に乗せて、とんとんとそこを何度か叩いてからやがてそれはまるで定位置であるかの如く落ち着く。ああ、こうしていると尺度が間違っている気が全くしない。まるで人形が標識を持っているかのような錯覚だ。



「平和島静雄」


マドラーに宿る神様だ。誇らしげにとても面白いことを放ってくれたものの、俺は全く笑うことができなかった。面白い。実に面白いがそれは酔っぱらっている人間ですら言うか怪しいジョークだろう。寧ろそんなことを現実の人間が口走ろうものなら勢いよくぶん殴ってやりたいところだったが、今そう言ったのは何せこのサイズの人っぽい人っぽくないものだ。そうだから、俺がここで笑えないことは仕方がない。


だから早く誰か、これは夢だと言ってくれ。





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