01 | ナノ




毎週水曜の朝が生活の中心である。




まぁ、世間一般の人からした日曜みたいなものだ。週の節目のような感じだと思って貰えればいい。別に休日とかそんなものは俺には関係ないけれど。寧ろ毎日が休日みたいなものだ。仕事はしているようなしていないようなそんな感じ。

学生の頃、友人と遊び半分で起業してそれが何だかよくわからない方向に軌道に乗ってしまい、今では立派な会社として成り立ってしまったのだ。

俺としては、成り上がるまでの過程が一番楽しかったので非常に複雑、と言うか経営して行くことが面倒になってしまったのだ。

そこで仲間の一人だった波江に「倒産させようよ、何か適当に、そしてもう一度最初っからやり直そうか」と言ったらグーで頭のてっぺんを殴られたことを覚えている。グーだよグー。しかも無表情でグー。あいつ絶対女じゃない。そんなの俺は認めない。

そして「社長として名前は残しておいてあげる、但しこちらが呼んだ時以外はオフィスに顔出さないで」ときっぱり言い放たれ、代表であるにも関わらず会社には出入り禁止となってしまった。まぁ、それは別にいい。何かメンバーと言う名の社員の士気にも関わるとか失礼なことも言われたし。これも別に俺は気にしてないけど。

取り敢えず俺は一人で暫くのんびりしようと、割と小ぢんまりしたアパートを借りた。小ぢんまりと言っても、5階建ての間取りは1LDKでそこそこ部屋は快適だ。元々家具やそういうものには余り拘らないから、取り敢えずパソコンがいくつか置けて適度に広い部屋、という理由だけで此処を選んだ。




「あなた生活能力無さそうだから、二週間くらい放っておいたら死んでそうよね」

「失礼だなぁ」

「死なれたら色々皺寄せが私に来そうで嫌」

「何で死ぬ前提なの、俺」

「さぁ、嫌いだからかしら」

「手厳しいね」

「お互い様でしょ」



これまた失礼な事を決め付けられて、週に一度、もしくは二週に一度は波江が俺の生存チェックに訪れる。別にわざわざ来なくても電話で確認すればいいのに、と思ったが女って言うのはどうも口煩くて余り好きになれない。言い返したら大体最低でも三倍くらいになって返ってくるからだ。だから俺は大人しくそれに従っている。まぁ、良い事も無ければ別に害も無いしね。

そんなこんなで俺は日々このアパートで自由気ままにのんびりとした生活を送っている。株をちょっと嗜んだりしてるから、生活には困らない。一応社長だったし、あ、今もそうか。世間一般の人が見たら自堕落そのものなんだろうねこの生活。




ここで冒頭に戻る訳だが、水曜は何の日か、と問われれば答えは簡単だ。ゴミの日である。

今大方の人間は何だそれとか思ったろう、まぁ俺だって普通に聞けば「へぇ」で終わるような一言だ。けど、今は違う。毎週水曜は隣に住む「平和島静雄」、彼がゴミを出す日なのである。

それだってまぁ他人からしたら「へぇ」の一言なんだろうけれど。俺にとってはこちらも他人である彼と唯一ごく自然に接触できる貴重な機会なのである。

一度顔を合わせてから彼についてわかった事は、ゴミは毎週水曜に出すこと、これくらいである。水曜と土曜がゴミの日なのだけれども、まぁ一人暮らしのゴミってついつい溜めがちだよね。これは彼も俺も同じらしい。

俺の場合は基本的に生活サイクルというものが存在していない、朝起きる日もあれば、深夜に起きる日だってある。しかしどちらかと言えばゴミは深夜に出すことが多かったので、彼とたまたま遭遇したあの日は本当に偶然だったと言えよう。



毎週水曜の朝、俺は彼より少し早く6時15分くらいに目を覚ます。その15分後に彼が起きる。一時間後、彼がドアへと向かい扉を開ける、10秒くらい待って、俺もドアを開ける。ちょうど5メートルくらいの距離を保ってゴミを片手に集積場へと向かい、決まり文句を口にするのだ。



「おはようございます」



一応薄く笑みは貼り付けてあるつもりなのだけれど、彼は毎度頗る眠いといった表情をしているので、多分俺を毎回俺だと認識していないだろう。焦点が何とも虚ろなのである。一応「はよ、ざいます」と小さく返ってはくるものの、彼はさして興味も無さそうにそのまま身を翻し駅の方へと向かうのだ。それを暫く見届けてから、俺は部屋に戻る。これが俺の水曜の日常である。


好き、と一口に言っても色々ある。因みに俺は彼が好きだ、何が好きかと問われれば数えるくらいしか答えることはできないが、好きだ。

けれど好きの意味は図りかねたままでいる。彼を見ると安心するし、落ち着くのだ。だから会いたいと思うし会うために低血圧の体に鞭を打って(実は早起きはかなりしんどい)ゴミを出しに行く。本当は放っておけば生存チェックもとい週一で尋ねてくる波江が捨ててくれるのだろうから。



彼の後姿が好きだ、ちょっと寝癖がちな髪とか、あと起き抜けの顔とか、掠れた低い声とか。



理由は特にない、そもそも何で男を好きになったのかそれもわからない。別に女が好きなわけじゃないから、ある意味それで十分なのかも知れないけれど。









週刊誌をぱらぱらと捲る、時刻は21時ちょっと前、ばたん。隣のドアの閉まる音がする。

お帰りなさい、今日はちょっと遅いんだね。心の隅で呟いてから、そんな自分がおかしくてほんの少し自嘲めいた笑みが零れた。









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