あとはあなたのおすきなように | ナノ




あとはあなたのおすきなように





「甘いものが飲みたい」

多分、いや確実に身体は糖分を欲していた。疲れているとか頭を使っただとかいろいろな原因が想定できたがとにかくそういう事を考えるより先に甘いものが欲しかった。

しかし先程シズちゃんと一緒に夕飯を平らげた俺の胃袋は、とてもじゃないがもう余分なスペースなど残してはいない。まぁ簡単に言えばお腹いっぱいという状態だ。別腹とかそういう単語は俺の中には存在しない。入ったら入っただけで別腹などはどこにも存在しない。結果、飲み物ならば液体として摂取が可能なのではと脳が導き出した必然の一言なのである。なのに、だ。目の前のシズちゃんの顔と言ったら物凄くおかしな顔をしている。なんて言うか、まぁ、睨んでる。うん、凄くとっても最上級に睨んでる。

「ミルクティーかココアが飲みたい、もしくはカフェオレでも可」

「可じゃねぇよ、んなモンうちには無ぇからな」

「ええ、じゃあ何ならあるの」

「ビールと水」

「………」

シズちゃんは果たして俺の言葉の意味を理解してくれたのだろうか気になってしまう返答だ。ビールと水、ビールと水、ビールはともかく水っていうのはたぶん蛇口を捻ったら出てくるあれの事を言いたいのだろう。それを自信満々に我が家の飲み物として宣言したわけだ。まぁ間違ってはないけれど、確かに先程覗いた冷蔵庫の中には缶ビールしか見当たらなかったような気がする。

「甘いのが飲みたいって言ってるんだけど」

「だからねぇって言ってんだろ」

「シズちゃん作って」

「死ねよ、できるワケねーだろこの馬鹿」

「…ミルクティー飲みたい」

「へぇ」

「ココア飲みたい、ビール要らない」

「へぇ、じゃあとっとと帰って飲みやがれ」



へぇへぇへぇへぇ昔やってたバラエティじゃないんだっつの。シズちゃんはテレビのリモコンを弄りつつこちらはちらりとも見ようとしない。俺を適当にあしらうなんて本当いい度胸だ。ち、と軽く舌打ちして立ち上がるとグラスを手に取り流し台の蛇口を捻って水をそれに注ぐ。そしてそのまま一口を口に含む。

ぬるい、不味い、変な味。何と言う三重苦だ。冷たければまだ飲めるもののぬるいお陰でその無味さが余計に引き立っている気がする。余りの不味さに俺はそのままグラスに残った水を流し台へと流した。ざぁ、とシンクに水をぶちまけてコップを適当に置く。これならまだ冷えたビール飲んだほうがましだろ。

ぷつ、シズちゃんがテレビの電源を落とし、部屋の鍵を片手に立ち上がる。どこ行くの、と問えばコンビニと直ぐに答えが返ってきた。

「…なに、お前行かねーの」

「え、いくいく、ちょっと待って」

突然のシズちゃんの行動に若干驚きつつも俺は慌てて身支度を整える。そして玄関へと向かえば靴を履いたシズちゃんがちょっと面倒臭そうだけど、それでも俺のことを待っていた。うん、シズちゃんのそういうところ嫌いじゃないよ、と言えばうるせー、と憎まれ口が返ってきた。それでも俺はそれが気にならない程度には上機嫌だった。帰れとか言ってた癖にね、コンビニ行ったら結局ここに帰って来ちゃうのにさ、ああ何か今ちょっと甘やかされてる気分。擽ったいけれど、まぁ中々どうして悪くは無い。


「シズちゃん」

靴をとんとんと鳴らしながら履き、ふと屈んだままシズちゃんを見上げれば、何だよ、と先程よりかは幾分か穏やかなシズちゃんが俺を見下ろす。

「今日何日か知ってる?」

「…あ?20日だろ」

「そ、4月20日」

「だから何だよ」

「ふふ、今日は俺が特別にシズちゃんにプリンを買ってあげよう」

「……は?」

ぽかんと音がしそうな程口を開けたままシズちゃんが固まる。うんまぁ予想通りの反応だけどね、まぁ寧ろ理解されても恥ずかしいからこれでいい。小さく笑ってから軽く背伸びをしてシズちゃんの口の端に口付けてやれば、シズちゃんはほんの少し顔を赤らめながらも、その思考は更に混乱しているようだった。別に知らなくていいよ俺が気付いただけだからね、まぁ小学生レベルの言葉遊びなんだけど、それでも今現在進行形で上機嫌な俺にはさほど気にはならなかったので、まぁよしとしよう。




(プリンみっつぶんの愛くらいはあげてもいい)




4月20日(静雄)の文でした





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