シェルターが存在しません | ナノ



シェルターが存在しません





「……い、…おい!」

ゆさゆさと乱暴にシズちゃんの掌が俺の肩を揺さぶるものだから、はっと突然現実に引き戻される。思考とは対照的に、ぼんやりとした視界にはシズちゃんのアップが映って、ああそうか、適当に飯食って酒飲んでそのまま適当にセックスして一緒に寝てたんだった、と何となく今の状況を思い出した。

ぼーっと暫くシズちゃんを眺めていたら、ふと頬に水に濡れた感触が伝うのが分かった。あ、なにこれ、最悪。シズちゃんの前で冗談じゃない。
まぁ冗談じゃないっていうのはある意味シズちゃんにも言えることらしく、寝起きて早々涙を流す俺の滑稽な様子にそりゃもうとても驚いた顔をしている。そういう顔は嫌いじゃないけどね、今の状況では見たくなかったなぁ。


「…めちゃくちゃ唸ってたけど」

「あー…うん、ちょっとね」

「何だよ」

「怖い夢、見た」

そこで俺はふぅと息を吐くと、ぽつりと独り言のように答えを呟いた。シズちゃんは俺が怖い夢を見て泣いているという状況がどうしても腑に落ちないらしく、ものすごーく難しい顔をして言葉に困っているようだった。いや俺にしたって面白くない状況なんだからそういう顔しないで欲しい。寧ろ困っているのはこちらの方だ。


「どんな夢だよ」

「すっごい怖いよ?シズちゃん眠れなくなっちゃうんじゃない」

「ああ?」

「花粉症になる夢」

「………、」


おお、予想通りの反応どうもありがとう。シズちゃんのこと好きじゃないけどそういう期待を裏切らないところは好きだなぁ本当。


「…花粉症でうなされる夢かよ」

「いやぁもう見たことのない量の花粉が飛んで来てたね、俺を含め全人類発症だね」

「…べらべら喋ってる暇あったらとっとと寝ろ」

「え、理不尽だな聞いてきたのシズちゃんなのに」

「聞いた俺が馬鹿だった」

「へー、漸く気付いたんだオメデトウ」

「殴るぞ。んで色んな意味で寝ろ」

いやいや、そんな永遠の眠りに着くことだけは勘弁して頂きたい。何より痛そうだし。

けど言葉とは裏腹にぼろりとまた涙が勝手に瞳から零れて、またしてもシズちゃんが驚いた顔を見せる。これには正直俺も驚いた。何て言うか、本当音を付けるならぼろぼろという感じで面白いように瞳から水が零れてくるのだ。ちょっとちょっと、さっき冗談じゃないって言ったろ、ちゃんと聞いてんの俺の身体。

「…リアルに花粉症発症したかなこれ」

ずっと業とらしく音を立てて鼻を啜れば、不意にもぞもぞと布団の中でシズちゃんの腕が蠢き、片方の掌で頭を、もう片方の手で背中をぐいと引き寄せられて俺はあっさりとその腕の中に抱き竦められてしまった。そして抱き寄せたかと思えば次に大きな掌がぽんぽんと、まるで子どもを寝付かせる親のような手つきで俺の髪を撫でてくる。
ちょっと、いやこれはもしかしなくてもシズちゃんなりの気遣いなんだろうけど、俺は驚いて抵抗も出来ずにすっぽりとシズちゃんの腕に収まる。シズちゃんは何も言わないし、俺も何も言わなかった。無言でただ黙々と頭だけを撫で続けられて、回された手から体温が伝わって、胸元に顔を埋めれば、当たり前だけれどシズちゃんの匂いがする。ああ、まるで俺専用のシェルターみたいだ。

シズちゃんの超人的な破壊力や身体構造からしてあながち笑えない冗談だな、と思いながら俺は取り合えず何も言わないまま目を閉じる。勿論髪を撫で続けるシズちゃんの手はそのままだ。さっさと余計なこと考えないで寝ろ、無言ではあるけれど、それが触れる手からは伝わった。

シズちゃんは卑怯だ。

生々しいことをして身体の中を暴かれるより、俺がずっとこういうのに弱いことを知っている。内側のやわらかい部分に、いとも容易く触れてみせる、シズちゃんのそういうところは嫌いだった。まぁ無自覚っていうのが奇跡なくらいだよね、ああこういうのを天然タラシっていうのかな。そんな下らないことを考えながら、俺は伏せた目蓋の奥で繰り返されるシズちゃんのリズムをただ感じていたかった。






(きみがいなくなる夢をみたよ、)







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前のサーバーに残ってたやつです
読んだことある人いたらすみません
季節がたまたま一緒だったのでもってきました



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