もしわたしとあなたでなかったらの話 | ナノ
※ぬるいですがえろ描写あり。念のためワンクッションでお願いします。














もしわたしとあなたでなかったらの話






ぐいと身体を持ち上げられて、長いこと浸っていた浴槽から俺の身体はいとも容易くシズちゃんの手によって抱え上げられる。ひょい、効果音を付けるならまさしくそんな感じだ。俺だって一応男なのになぁ、まぁ細身であることは自分でも認めざるを得ないけど、何かこうも簡単に持ち運びをされてしまうとちょっと悲しい。いや虚しい。
しかしながら相手はあのシズちゃんだ。標識やガードレールをまるで子どもがおもちゃを振り回すようにして扱うのだから、まぁ致し方ないと言えよう。

そのまま俺の背中は浴室の冷たい壁にぐい、と押し付けられる。移動する間も俺とシズちゃんの唇は終始くっついたまんまだ。

まぁ、ここまで来るとなんかもうぶっちゃけ離れ難い。離れる意味がわからないし離れたら途端に苦しくなるんじゃないかとさえ思った。おかしな話だ、どう考えたってこんな延々キスばっかしてる方が苦しいに決まってる。酸素だって足りない、正直苦しいしつらい。しかも俺たちは元々別々の固体なのに、まるでいまこうしているのが普通でましてや自然なほどに、とても気持ちが良かった。…これもし全部本人にばれたら俺死ぬなぁ。

「ん、」

余計なことを考えていると、それをシズちゃんが察したのか肩をぐいと捕まれてはっと我に返る。集中しろ、べつに言われてもないのにそう指摘された気がして俺は更に頭に血が上ったように眩暈がした。

舌先を無我夢中で絡めて吸って時々唇に歯を立てられて、そこから段々じんとした痺れが走る。じわじわと全身が何かに侵食されていくように、シズちゃんの身体と触れている部分がぴりぴりと熱くなった。でもやめないし、やめたくない。なんなんだこれは、シズちゃん俺になにかした?なんでこんな風になっちゃってんの俺たち。

「っ、あ、」

不意にぐっとシズちゃんが腰を押し付けてきて、俺の口からは堪え切れなかったものがぽろりと出た。するとそれを聞き逃さなかったシズちゃんは更に自分の腰をぐいぐいと壁に追い詰められた俺の腰に押し付けてくる。こんな事を言うのも何だが、俺だって人間だ、しかも只でさえ感覚が敏感になっている時にそんな風にされたら反応だってしてしまう。

最初はぐいぐいと押し付けるだけだったシズちゃんの腰の動きが、段々と擦り付けるような、まるで感覚を確かめるようなそんな動きに変わってくる。互いに衣服を身に着けたままだから、ごそごそと布が擦れる音が生き物みたいで何だか気持ち悪い。ちょっと卑猥な香りもする。べろりと舌で唇を舐められて堪らなくぞくぞくとした感覚が俺の背筋を這い上がって行く。ばかみたいに気持ちがいい。

互いの乱れた呼吸と、シズちゃんの吐息混じりの声、そして衣服の擦れる音。いま浴室にある音といったらそれくらいで、逆にこれでもかという程の3点セットだと思った。あつい、あついあついあつい。

「…あ、ちょ、ま、って」

快感に忠実な俺とシズちゃんの身体はそれを互いに擦り合わせることによって反応を示し始める。硬く張り詰めたシズちゃんのものが、こちらも程ほどに反応していた俺のものに押し付けられることによって更に与えられる刺激は強くなる。段々とシズちゃんの腰の動きが性急なものになってきて、快感を求めてはこの行為の決定打を探すように擦り付けられる。くるしい、俺の行き場を無くした手はシズちゃんの二の腕辺りのシャツを握り締めたままそこから動けなくなっている。

「ふ、服…よご、れる…から!」

我ながらなんて陳腐な言い訳なんだろうと思った。実に笑えない。ほんの十分くらい前に雨やらシャワーやらでずぶ濡れになっていた俺には到底似合わない台詞だと思ったが、この一言が俺なりの余りにも小さな抵抗だったのだ。

かちゃかちゃとベルトを外す音が聞こえたかと思うと、ずるりと呆気なく下着の中から俺の勃ち上がったものが取り出された。もちろん自分で確認してはいない、って言うか見たくもない。
外気に晒されたことと、シズちゃんの手で直に触れられたのも手伝ってびくりと肩が一瞬だけ震える。すると間髪入れずシズちゃん自身がぴたりと添えられ、そのままやたらと大きなその掌で包み込まれたかと思うと、ゆるゆるとした動きで上下に扱き上げられた。


「あ、あっ、やだ…!…あ!」

衣服越しの焦れったい感覚とは違う、リアルで生々しくてずっと強烈な快感が押し寄せる。ぐちゃりと互いの先走りがシズちゃんの指先に絡んで卑猥な音を立てている。全体を確かめるように何度も何度も上下に撫であげられて、時々先端を指先でくちゅくちゅと弄られて、腰の辺りにじくじくと燻ったようなものが蓄積されて行く。

「あっ、あ、…っ、はぁ…!」

相変わらずと言っては何だが、俺の口からは言葉にならないような声しか出ない。当たり前だ、快感のみが今頭の中を制御している、他には何もなくてただひたすら高みを求めて俺は自ら腰を揺らす。そしたらシズちゃんの息が一瞬詰まるのを感じて俺は更にたまらなくなった。やばい、どうしよう、ぞくぞくする。

「……あ!」

途端にきゅっと先端を摘まれて一際高いトーンの声が零れた。もう何か恥ずかしいとかそんなことはこの際言っていられない。すっかり乱れた呼吸を繰り返しながらぼんやりした視界でシズちゃんを見上げる。キスして欲しいなぁなんて思っていたら、当然超能力者でも何でもないシズちゃんは、キスの代わりに耳元に唇を寄せてきた。


「臨也」

「ひゃ、…う…!」

あ、あ、うわ、なに。多分俺の今の気持ちを声にしたらこんな感じだと思う。シズちゃんが俺の耳元に軽く口付けたかと思うと、あろうことかそのまま唇を押し付けたままで俺の名前を低く紡いだ。不意打ちを喰らった俺の口からは何とも間の抜けた声が漏れ、それでもシズちゃんは唇を耳に押し付けたまんまの状態で、舌先で軽く耳の縁を撫でるようにして舐め上げた。

「あ、やめろ、ばか」

すっかり力の抜けてしまった弱々しい俺の声は全く説得力に欠けている。ぐしゃ、俺はシズちゃんのシャツを掴む指先に更にぐっと力を込めて何とかその感覚をやり過ごす。けれどシズちゃんはそのまま穏やかになっていた筈の俺のものとシズちゃんのものに触れる手の動きを再開し始めた。

ぐちゃ、と絡められた指先の方から音がする。互いの性器を擦り合わせて興奮するだなんて、今まで散々好きなようにセックスをしてきた以前の俺たちが見てしまったら、まるでおかしな光景だと思う。
それでもシズちゃんの手の動きに合わせるようにして腰を揺らせばシズちゃんが気持ちよさそうに息を吐くので、それがもっと聞きたくてそして何だかやたらと気持ちよくて俺は夢中になって腰を揺すった。

「あっあっ、あ、シズ、ちゃ」

「っ、臨、也」

びくびくといっそ笑えるほど、シズちゃんの低くて熱っぽい声が俺の耳元で響く度に俺の身体は震える。まるで危ない薬みたいだ。ただ名前を呼ばれているだけなのにこの破壊力は一体なんだ。って言うかこんなことでばかみたいに気持ちよくなってるとか、俺なんか変態みたい。でも気持ちいい。たまらなく、いい。

限界が近いのか耳元のシズちゃんの息が段々と切羽詰まったように荒くなる。自身を擦り上げる掌の動きも性急だ。一気に高みに追い上げるみたくして、手の動きと腰の動きがリズミカルに重なる。がくがくと揺すられて自ら腰を擦りつけて、頭の奥がちかちかした。
かり、シズちゃんが俺の耳に軽く歯を立ててくるものだからその薄く開いた口の隙間から熱い吐息が俺の耳に注ぎ込まれる。もう何も考えられなくて、考えたいとも思わなかった。既に俺の頭は考えることを放棄している。

「あ、あっ、も、…シズちゃん…!」

首を竦め追い詰められたように絶えず与えられる刺激に、、俺の身体は限界だった。まぁ主に聴覚がやばい。もう本当に兎に角やばい。もういち早くどうにかして欲しくて半ばやけくそになりながら訴えるように名前を呼ぶ。耳が、もうほんと、死ぬ。俺は生きても耳が死ぬ。もう、だからほんと早く何とかして。そしてきゅっと掌を握りこまれたのと殆ど同時、だった。







「好きだ、」








びくん!と大袈裟なほど俺の身体が震えて、ぱたぱたとシズちゃんの腹に白濁を放つ。ぴくぴくと震えていたらどうやらシズちゃんも達したらしく、俺の腹部にはシズちゃんのそれが容赦なく降りかかる。ぐっと息を詰める声が、シズちゃんの唇が未だ俺の耳元にある所為で、達しているにも関わらず俺はふるりと快感に身を震わせた。

「っ、あ…!」

この男、どれだけエロい声してやがる。正直素直な感想だ。殺されるかと思った。
そして射精後の倦怠感と居た堪れなさと何だか色々な罪悪感が一気に俺を襲う。俺はずるずると浴室の壁に凭れながら座り込むと、膝に手を付きそのまま腕に顔を押し付けて項垂れた。もうなんか最悪だ。


「…おい」

上からシズちゃんの、ちょっと気まずそうな声が降ってくる。そりゃそうだろ、だって俺からしてみたらこういう事になってしまったのは全部シズちゃんの所為だ。シズちゃんが全部悪い。もう誰かの所為にしないとやって行けないよ俺は。だって、まさかそんな、シズちゃんのあんな一言で簡単にイってしまうなんて、ありえない。

「……死にたい」

「おい、」

「もうやだ、シズちゃんの顔見れない…」

「…何だそりゃ」

って言うか見たくない。無理だ無理、俺はもうシズちゃんに見られる度に一々死にたくなるんだろう。それならいっそこのまま一生見たくはない。

恥ずかしいのか居た堪れないのかもう何が何だかわからない、ぐちゃぐちゃだ。ついでに俺の状態もぐちゃぐちゃだよアハハ。もう何かおかしいけど笑えないよね、笑って生きて行ければいいけどね、生憎と俺はそんな脳天気には出来ていないのだ。どちらかと言えば繊細な生き物だ。取り扱い注意なんだよシズちゃんは全然わかってないねきっと。

くしゃりと無駄にでかい掌で髪を掻き撫ぜられる。それはやたらと暖かくて、今まさにこの手の持ち主によってずたぼろにされた俺の心は、ちょっとだけその暖かさにじんわりとしてしまった。くそ、むかつくむかつくむかつく!

「さわんなシズちゃんの癖に」

「うるせーよもっと触れって顔してた癖に」

「してない、死ね」

「あっそ」


うざい。掛ける言葉はぶっきらぼうな癖に未だ俺の髪を撫で続けるその手はばかみたいにやさしい。俺としては早く先にこの浴室から出て行って欲しい気持ちもあったのだが、もうちょっとだけなら撫でさせてやらなくもないと、ほんの少しだけ心の隅で思っていた。





(なにもかもがいまさらすぎた)







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