みかんしずお | ナノ





※静雄がみかん大好きらしいよ
※静雄の家には炬燵があるらしいよ
※みかんおいしいよオチはないよ






「…みかんが食いたい」

ぼそりとシズちゃんは炬燵に両手を突っ込んだ状態で呟いた。そんな彼の目の前には今さっきまで黙々と食べ続けていたみかんの皮がこんもりと積まれている。要するに言っている事は大分矛盾しているといえよう、ぱくりと自分の手の中のみかんを口に放り込みながら、ジャンキーめ。そんな事を心の中で吐き捨てた。

「もうボケたの?今さっき食べたとこじゃん。痴呆の老人みたいな事言わないでよ」

「うるせぇ、みかんを出せ」

「いや出せってね、ここシズちゃんの家だからね。俺の家炬燵とか無いし」

「買って来い」

「店閉まってるっての、今何時だと思ってんだ馬鹿」

手前に馬鹿とか言われたくねーよこの馬鹿、相も変わらずみかんの皮を凝視したままシズちゃんは言う。ついでに炬燵の中で足を蹴られた、ので倍くらいの力で蹴り返してやった。シズちゃんの感覚では痛みなど感じることはないだろうけれどむかついたので止む無しだ。

最近彼はどうやらみかんに夢中らしく毎日毎日みかんを食べ続けているらしい。それで先日俺が親切に箱で買って送り付けてやったにも関わらず、一週間と経たずそのみかん箱は空っぽになってしまった。因みに俺が今まさに食べているみかんが最後のひとつと言うわけだ。このみかん幾らしたと思ってやがるふざけやがって。

「コンビニ行けば?みかんなくてもみかんゼリーくらいは売ってるよ」

「馬鹿か。あの皮を剥いて食べるからいいんじゃねーか」

「…あっそう」

駄目だ、このみかん馬鹿とは会話が成り立たない。実に冷え切った声で適当に返事をして俺はシズちゃんの前に積まれていたみかんの皮を掴みゴミ箱に投げ捨てた。こんなものが目の前にあるから余計食べたくなるんじゃないの、言えば捨てた行為をまるで非難するようにシズちゃんはじとりとこちらを陰湿な視線で見つめてきた。

「…手前、最後のみかんの名残を」

「じゃあ皮食べれば、もう捨てたけど」

「ふざけんなつーか手前が食ってんの寄越せ」

「はぁ?やだよ。シズちゃん自分が何個食べたかわかって言ってんの?俺これこの部屋来て一個目なんだから横取りとかせこい真似やめてよね」

言いつつみかんを庇うように掌で遮るようにすれば、シズちゃんは実に面白くなさそうな顔でちっと舌打ちをした。それも小声でみかんみかんと呟きながらだ、正直、その様子はとてつもなく気持ちが悪い。

煙草に関しても思う所だが、自分の懐ときちんと相談して物を消費すべきだろ。みかんだってそう安くはないんだからせめて一日一個だけ食べるとか、そのくらい可愛いことして見せろよと思うが、シズちゃんの軽い頭には多分、いや絶対無理な話だ。彼はいつだって欲望には忠実そのものである。キレる時を含めそれはもう、常に全力だ。

「寄越せ」

「やだ」

「よこせっつってんだろ」

「やだっつってんだろ。今度アロマポットとスイートオレンジのオイル買ってあげるからそれまで我慢しなよ」

そのまま手元に残っていた最後のひとかけらをぽいと口に放り込んでざまぁみろと笑って見せた。するとシズちゃんは突然炬燵から身を乗り出して向かいに座る俺の服の首元をわし掴みにしてぐいと引き寄せる。

え、ちょっと、なに、そんな心の声などシズちゃんは知る由もなく、引き寄せる力のまま強引に唇を重ねられる。そのまま容赦なく入り込んできた舌先が口内をぐるりと這って、俺が今まさに咀嚼せんとしていたみかんを攫って行きそのまま唇は案外あっさりと離された。

「…は、」

何しやがる、言おうとしたら唇をべろりと舐められてそんな言葉は飲み込まざるを得なくなってしまった。首元を掴む手の力が緩み「おい」、声を掛けられてぽかんと呆けていた視線をシズちゃんへと直す。実に真顔で悪びれた様子もなく、当たり前のように彼は言い放った。




「もっと寄越せ」





(だからないっつってんだろ)








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