どくどく、と心臓が煩いくらいに鳴っていた。
皮膚を突き破って零れ落ちてしまうのではないかというくらいに痛い心臓を押さえつけ、クラトスは手近にあった大樹に寄りかかる。
痛みというものはあまり感じない、ただぬめりとした紅く鉄臭い液体が肩口から胸部に掛けて滑り落ちる感覚は良いものではない。
寧ろ若干気持ち悪いくらいだ。
嗅覚が汚染される、視覚が拘束される。
訳の分からない感覚が身体全体を支配し、留まる事を知らない。
ただ単にこの心臓が煩いのは傷の所為ではない、それだけは理解できた。
何故、こんなに煩く鳴るのか。
理由など、知れた事。
最愛の息子に手を掛け、返り討ちにあった。
ただ、それだけ。
真っ向から向かってきたロイドに迎え撃つよう、剣を構えた。
金属が触れ合う嫌な音が響いて、魔術の詠唱される声を聞き、先手を打った。
初級魔術と言えどクラトスの手に掛かれば絶大なダメージを誇る。
穏やかな慢心、苦しい程の絶望感。
この先どう足掻いてもロイド達の元へ帰る事は赦されない、そう現実を突き付けられているかのようで。
僅かに顔を顰めて雑念を振り払う。
迷いは断ち切ったつもりなのに現実は違っていて。
その迷いがクラトスを破滅へと追い遣った。
肉を断たれる感触、同時に溢れ出る生暖かい血液。
血は雨のように降り注ぎ、ロイドを濡らした。
意識が僅かに遠退く。
しかし、辛うじて保たれた意識の隅で起こる新たな惨劇。
ユグドラシルの登場により、ロイドは吹き飛ばされ空間を支える支柱に激突した。
其処から先は殆ど覚えていない。
レネゲードが来ていたような気がする。
兎に角ユグドラシルの命令通り、ウィルガイアへと帰還した。
顔面蒼白な顔を見たか見ないかは知らないが、ユグドラシルは案外あっさりとクラトスを解放した。
そして、先程に至る。
テセアラへと移動し、ガオラキアの森で休まらない休息を得た。
薄暗い森で、煩いくらいに鳴る心臓。
僅かばかり残る痛みに顔を顰めて、自分自身に回復魔術を唱える。
暖かい光に包まれて、大きな傷は跡形もなく消滅した。
それでも、心臓が痛い。
傷口もないのに、真っ赤な血液が溢れ出ているような感覚。
これは一体何の兆候なのか。
意味も分からず、動く事すら出来ない。
指一本でも動かせば傷口は大きく開き、致死量の血液が溢れ出てしまいそうで。

「…愚かだな。」

何を恐怖しているのか。
もう数え切れない程の罪を重ねて生きてきて、今更何が“生きたい”だ。
自分を詰れば、僅かに痛みが引いた気がした。
重い身体を叱咤して立ち上がり、服に付いた砂や木の葉を払う。
異端ですらある、その身体は既に崩落を始めているであろうに。
苦しいだとか、哀しいだとか。
今更そんな事を言っていても、全てが無駄なのに。
クラトスはぐっと下唇を噛んで、蒼く輝く羽を背に生み出す。
これから向かう先は決めていない。
兎に角、何処かへ行きたかった。

「ロイド…無事でいてくれ。」

恐らくは無事に逃げ切れているだろう。
ロイド達にはリフィルが付いている、彼女に任せれば上手い具合に事が運ぶ事をクラトスは知っている。
だが、それ以上に心を占めてしまうものがあった。
恐ろしいくらいに醜く、哀しいほどに醜悪なその感情。
ぎしりと音を立てて軋んでいく。
一線を越える事など、赦されるはずがない。
それは同性であり、敵同士であり。
“親子”であるから。



軋む感情
(醜い己の感情だけを振り回すなど、赦される筈がない。)
(せめて、想わせて欲しい。)
(いつか私の世界が崩落するその時まで。)





+++
うん、凄く暗いwww
許されるとかそう言う以前に自分から向き合わないクラトスだし、向き合えば少しは変わってたかもしれない。
こういう風に毎回クラトスが根暗になるのは一体何故か…駄目だマダオな父さんしか思い浮かばなくなってきているwww
嫌いじゃないんだよ、ただ単にこういう風になってしまうだけであって。
ロイドの独白とか書いてみたい…けどロイドだとまた違った根暗になりそうに1票orz

10-07/25
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