※現代パロディ。
※BUMP/OF/CHIC/KINさんの「車輪の唄」が題材です。





錆び付いた車輪がぎしぎしと悲鳴を上げる。
自転車は茶と青の子供を運ぶ。
明け方の空は薄らと光を帯びて何処か神秘的だ。
遠くに駅が見えた。
ペダルを漕ぐアスベルの背中に寄りかかるヒューバート。
其処から伝わるのは確かなぬくもり。
線路沿いの上り坂に差し掛かると、ヒューバートは嬉しそうに口を開いた。

「もうちょっとだね、ぼく、楽しみだなあ。」

その呟きに答える事が出来ず、アスベルは無言でペダルを漕ぎ続けた。
不意にアスベルが静か過ぎる町を見てぽつりと小さくこぼした。

「世界中に2人だけ、みたいだよな。」
「でも家にいっぱいいるよ。」
「…そうだな。」

ヒューバートの的確な言葉に少し苦笑いをして、またペダルを漕ぐ。
同時にアスベルは坂を上りきった時、言葉を失った。
迎えてくれた朝焼けが、あまりに綺麗過ぎて。
アスベルが風の音と共に小さく呟く。
笑っていたんだろう、あの時俺の後ろ側で、と。
振り返りたくてもそれが出来なかった。
俺は泣いていたから、と。
駅に着くと、アスベルは自転車を券売機の横に停める。
ヒューバートが大きな鞄を自転車から降ろし、肩に掛けている間にアスベルは券売機を見上げた。
彼は一番高い切符が行く町を知らない。
それなのに、一番安い入場券はすぐに使うのにアスベルは大事にしまった。
鞄を肩に掛け終えて、ヒューバートは券売機に向かい一番高い切符を買う。
ジジ…と鈍い音が鳴り、券売機から小さな切符が吐き出される。
切符を取るとヒューバートは改札に行き、切符が改札に吸い込まれる。
その時、大きな鞄が改札に引っ掛かり、ヒューバートはアスベルを見た。
アスベルは目を合わせず頷いて、頑なに引っ掛かる鞄の紐を改札から外した。
一瞬間の強張りから逃れたヒューバートは少し前のめりになって、鞄の重みで元に戻る。
少し遅れてアスベルがホームに入ると出発の合図であるベルが響いた。
まるで、最後を告げるかのように。
慌てて電車に向かうと、ヒューバートの目の前でドアが開く。
何万歩よりも距離のある一歩を踏み出してヒューバートは口を開く。

「約束だよ、兄さん。必ずまた会おう。」

その言葉に応えられず俯いたまま、アスベルは手を振った。
もう一度ベルが鳴り響き、ドアがゆっくりと閉まる。
ガシャガシャとピストン音が始まり、電車がホームから滑るように離れる。
アスベルは俯いていた顔を上げて、じっと、未だ動きの遅い電車を目線で追う。
そして、先程の言葉を思い出して改札を飛び出した。

「…間違いじゃないよな、あの時お前…」

自転車に跨り、駅を離れる。
線路沿いの下り坂を風よりも速く飛ばした。
ただ1つ、ヒューバートに追いつけ、と。
錆び付いた車輪が悲鳴を上げて精一杯電車と並ぶ。
それでもゆっくり離されていく。
泣いてたんだろう、あの時ドアの向こう側で、と。
顔を見なくても分かってた。
ヒューバートの声が震えていたから、と。
自転車から立ち上がるようにペダルを漕ぎ、大声で叫ぶ。

「約束だ、ヒューバート!必ず、いつの日かまた会おう!!」

離れていく弟に見えるように、大きく手を振って、声の限り叫んだ。
ヒューバートに届いたのか、アスベルには分からない。
それでもアスベルは構わなかった。
一瞬、遠くに向かう電車の窓からヒューバートの青い髪の毛が見える。
気付いてくれたかは分からない。
しかし、それに安心してしまい自転車を漕ぐスピードが遅くなって反動で自転車が大きく傾き、土手にアスベルは転がった。
盛大な音を立てて倒れた自転車に踏みつけられるような形で転んだアスベルは自転車に悪態を吐く。
無論そんな事をしても無駄だったのに、とアスベルは少しだけ気が滅入った表情をした。
自転車を退けて、アスベルが立つと走り去った電車の先、遠くに町が見える。
誰もいなくなった自転車に跨ってペダルを漕ぐと、町の賑わいが僅かに聞こえてくる。

「世界中に1人だけみたいだ…」

アスベルは小さくこぼした。
錆び付いた車輪がぎしぎしと悲鳴を上げて、残されたアスベルを運んでいく。
その背中に残ったのはヒューバートの微かなぬくもり。



からから廻る、からから独り
(穏やかで優しい風が一陣吹いた。)
(まるで、俺を慰めてくれているように。)





+++
「春のグレイセス幼少祭」様に投稿させて頂きました!
BUMP/OF/CHIC/KINさんの「車輪の唄」を題材に現代パロディです、台詞が少ないから幼少に見えない罠…/(^O^)\
ぜひ原曲に併せて見ていただきたいです、素晴らしい曲ですので!
それでは、素敵な企画を有難うございました!

10-03/22
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