イセリアの郊外に、古い樹木がある。
何でも樹齢数千年で、古代カーラーン大戦すら見下ろしていた巨大な樹。
未だ青々と繁る葉は美しく、見ている者を魅了する。
そんな大樹の麓、クラトスは静かに天空を眺めていた。
古い大樹に寄り掛かった彼から見えるのは、木の葉に覆われた切り取られた蒼色。
切なく淋しく、なのに美しい。
煩く感じた町の喧騒は、そよそよと揺らぐ木の葉の音に掻き消される。
そんな時。

「おーい、クラトスー!」

町から一つ、溌剌とした少年の声が此方に向かってくる。
振り向くと矢張り、ロイドの声で。

「…どうした?」

いつもの淡泊とした声色は何処へやら、優しい色に変わる。
最近漸く父親として接する事が出来るようになり、ロイドもまた、事態を受け入れて甘えてくれるようになった。
緩やかな坂道を駆け上がってきたロイドは肩で息をして、そのままクラトスに視線をあわせた。

「…どうした?」

先程と同じ問い。
しかしロイドは頓着する事もなく、クラトスの隣を陣取って大樹に寄り掛かった。
一瞬だけ困ったように表情が歪むが、ロイドは何も言わない。
ならば無理に言わせるのもよくないと思い、クラトスは口を閉じてまた天空を眺めた。
静かな時が流れる。
鳥が2羽彼方へと消えていった。
数分経ち、ロイドはそわそわと周辺を見たり、クラトスを横目で見たりを繰り返し始める。

「一体どうしたのだ?」
「…いや、その…」

歯切れの悪いロイドの言葉にクラトスは首を傾げる。
だが、ロイドはそれでも小さな声であー、だの、うー、だのと呟いたきり黙ってしまう。
クラトスは諦めてもう一度視線を空に向けて息を吐く。

「…ッ、あ、あのさ!」

漸くロイドが決心したようにクラトスに向き直る。
その瞳は力強い光を湛え、思わずクラトスは息を呑んだ。
それなのに、何処か言い辛そうな雰囲気すら感じ取る事が出来る。

「今日、父の日…だろ。だからクラトスに何かプレゼントしようと思ったんだ。」
「ほぅ…それで?」
「何を贈ったらいいかとかよく分からなくてさ、結局何も用意出来なかった…」

しゅん、とロイドが項垂れる。
それだけ思い詰めていたのか、言い終わった後のロイドの瞳には僅かだが涙が溜まっていた。
対応に困ってしまい、クラトスが視線を右往左往させていると、ロイドの瞳から留まり切れなかった雫が重力によって落とされる。

「ロイド…」
「だから、さ。よく分かんなくて…俺が今日1日クラトスの傍にいる、とかダメ…かな?」

少し声を上擦らせて、涙を拭いながらロイドは微笑む。
そんなロイドを見て、クラトスは優しく笑った。

「有難う、ロイド…最高のプレゼントだ。」

くしゃり、と頭を撫でて。
クラトスはロイドを抱き締めた。



Happy Father's Day!
(最愛の息子よ、有難う。)
(この日は一生忘れないだろう…)





+++
父の日親子!
…って事でクラロイじゃなく親子に仕上げましたー、何だか在り来たりというか2番どころか3番煎じですいません。
最終的にクラトスはモノより素敵な思い出貰って幸せだと思います。
きっとモノ<<<思い出だと思う、奥さんと息子守れなかった日から思い出を大事にしてそうなイメージです。

10-06/20
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