※続編(ラタトスクの騎士)設定は大きく無視されてます
※本編から100年後の世界設定





惑星が大地から離れ、幾年が経ったのか。
次第に薄れ行く時間の感覚が、生を曖昧にしてゆく。
だが、久々に時の流れが解った。
蒼く澄み切った星。
懐かしい生まれ故郷が視界の端へと姿を現す。

「…もう、100年か。」

ぽつりと零れた言葉が誰に届くでもなく、虚空に吸い込まれる。
あの大地から離れ、既に100年が経過していた事に素直に驚いた。
まだ数年、あっても数十年であろうと思っていたからだ。
デリス・カーラーンが大地に接近する。
久し振りに、思い出と温もりの積もった星を歩くのも悪くないかもしれない。
気紛れで身支度を整えて、最後に剣を腰に挿し大地へと降り立った。
降り立った場所は統合されて活気を生んだシルヴァラントのルイン郊外だった。
唯一愛した女性の産まれた街、ディザイアンに破壊され立ち直った街。
心成しか表情が緩み、懐かしさに胸が一杯になる。

「…あまり、変わっていないのだな。」

記憶の彼方にある街と、今の視界に映る街。
何か違う物を探そうと街を歩くと、此方に向かって走ってくる少年がクラトスにぶつかって転んだ。
突然の出来事で一瞬反応が遅れたが、助け起こすと少年はにっこり笑って御礼を言い、行こうとしていた場所に向かっていった。
その先にいたのは父親らしき男性で、仲睦ましく何処かに行ってしまう。
光景がシンクロして、昔の記憶を呼び覚ます。
背中に飛びついてきてバランスを崩す最愛の息子の姿。
思い出した記憶を振り払うように頭(かぶり)を振る。
100年という月日は永い。
クラトスは永遠に等しい恒久の時を生き永らえているが、ロイドは違う。
無意識に歩けば、噴水のある広場へと辿り着いていた。

「…あれ、クラトス、さん?」

不意に声を掛けられて、クラトスは振り向いた。
其処にいたのは、あの時のハーフエルフの姉弟。
弟であるジーニアスは随分と身長が伸びているし、姉のリフィルもあまり変わりこそしないが髪を伸ばして下の方で纏めている。

「お久し振りね…100年振りかしら。」
「そのようだな。」

リフィルに握手を求められて、クラトスは右手を差し出した。
固く手を握ると、次いでジーニアス。
あの頃の幼かった印象は払拭されて、随分と逞しく成長している。
見下ろしていた彼と殆ど目線が同じで内心驚いたが、あまり表情には出さず握手を交わす。

「デリス・カーラーンは大丈夫なのかしら?」
「ああ…あと1週間は平気だろう。」
「そうなの、なら暫く此方にいるのね。」
「そう言う事になるな。」

クラトスは僅かに微笑み、ジーニアスの手を離した。
その変化に驚いたジーニアスが一歩後ずさるが、クラトスは特に気にしていないようだった。

「…なら、ロイドに会って行くと良いわ。」
「姉さん!!」
「何れ、解る事でしょう…なら、早い内がよくてよ。」

突然ロイドの話に飛躍し驚いたのにも拘らず、リフィルとジーニアスの表情は暗くて。
クラトスの心に暗雲をもたらした。

「ロイドに会う、とは?もう…亡くなっているのだろう…」

表情を曇らせたクラトスが静かに呟く。
リフィルは俯いて、ジーニアスは視線を逸らした。

「…生きて、るよ。」

ぽつん、と消え入りそうな声でジーニアスは言葉を紡いだ。
その言葉にクラトスは、弾かれたかのようにジーニアスの肩を掴んだ。
ジーニアスは痛みに顔を顰めたが、クラトスは形振り構わずに強く彼を揺さぶる。
慌ててリフィルが制止に入りクラトスを押さえたが、すぐにクラトスは踵を返した。

「何処にいるのか、解っているの?」
「…大体の見当は付く。大方ダイク殿の家かコレットの家だろう。」
「…案内するわ。」

切羽詰ったクラトスに心を締め付けられた2人は、レアバードに似た乗り物を取り出した。
乗り込むように指示を出し、クラトスはそれに従った。
機体が上空へ浮上し、速いスピードで空を滑るように走る。
何分経ったか分からない頃、漸く機体は減速して地上へと降り立った。
其処は懐かしさの溢れるダイク邸だった。
リフィルが乗り物から飛び降りて玄関に向かう。
残された2人もそれに倣い、乗り物から降りてリフィルの後を追った。
こんこん。
控えめなノックを数回してから少し扉から離れ、内側から開く事を待つ。
少しするとかちゃり、と扉が開いた。

「あ、先生にジーニアス。お久し振りです。」

出て来たのはコレットだった。
昔のあどけなく幼い少女のイメージから一転、随分と大人びている。
コレットがクラトスを視界に捉えると、悲しそうに目を伏せた。

「…100年、もう経ったんですね。」
「ええ…早いわね。」
「中へどうぞ、丁度ロイドも眠っています。」

道を空けながらコレットが言う。
リフィル、ジーニアス、クラトスの順で部屋に入るとコレットは扉を閉めた。
ばたん…と閉まる扉の音が何処か寂しげな音を奏でる。
各々が椅子に座ると、リフィルが重い口を開いた。

「…何処から話せばいいのかしら。」

顔を掌で覆って、リフィルは力なく呟く。
ジーニアスは未だに俯き、床に視線を落として言葉を発そうとすらしなかった。
徐(おもむろ)にコレットが立ち上がってキッチンへと姿を消す。

「姉さん…まず現状じゃないかな。」
「…そう、ね。」

ジーニアスの言葉で、リフィルは決心が付いたようだった。
一番扉に近い場所にいるクラトスを見据えると、リフィルは淡々と言葉を紡いだ。

「…ロイドは、貴方がデリス・カーラーンに向かった直後、天使疾患に罹りました。」
「ッ!!」
「エクスフィアの暴走…身体、精神への苦痛…一度ロイドは意識混濁を起こし、すぐに亡くなったわ。」
「どう言う…」
「推測でしかないわ。ロイドは…恒久に生き続ける…」
「待て。先程死んだといったのは何なのだ。」
「再生よ…そう、例えるのなら…不死鳥。幾ら絶命しようとも…何度でも生命(いのち)を甦らせる。」

リフィルの告白に、クラトスは頭を殴られたような感覚に陥る。
天使のように半永久の生ではなく、死を持つ苦痛の生。
要約するとそうなのだ。
ぽろぽろとリフィルの瞳から涙が零れる。
それを見計らったようにコレットが戻ってきて、リフィルに熱いコーヒーを差し出した。

「有難う、コレット。」

小さく謝礼の言葉を述べ、リフィルはマグカップに口付ける。
コーヒーのほろ苦い香りが周囲に立ち込めた。
コレットは椅子に座りなおして、クラトスを見た。

「…もう、100年です。」
「…」
「ロイドは、もう5回死にました。何度も、何度も、父さんに逢いたい…って言って、笑いながら、息を引き取るんです。」
「…そうか。」
「17年しか生きれないんです。ううん…生まれ落ちても、ずっと17歳のまんまなんです。」
「コレット…」
「ずっとずっと、クラトスさんを待ってたんです…笑って、泣いて…逢いたいな、って言って。」
「もう、いいわ…コレット…」
「クラトスさん、ロイドに会ってあげてください…」

コレットの瞳からも大粒の涙が零れ落ちた。
零れる雫を拭う術を持たず、コレットは咽ぶように泣いた。
ジーニアスが立ち上がってコレットを抱き締める。

「…ロイドに、会ってあげて頂戴。」

リフィルの声が嫌に部屋に響いた。
その言葉は何処か厳しく叱りつけるようで、泣きそうな儚い声色だった。
無言で頷いたクラトスはロイドの自室である2階へと上がる。
きしきし、と木の階段が悲鳴を上げて。
部屋に入るとベッドが膨らんでいるのが分かった。

「…コレット?」

か細い声がベッドの中から聞こえる。
昔聞いた溌剌とした声ではない。
痛々しく、今にも事切れてしまいそうな儚い声。

「コレット…じゃ、ないのか?…誰?」

普段コレットしか訪れないからだろう、彼女以外の気配だと気付いたロイドは不思議そうに尋ねた。
クラトスはなるべく刺激を与えないようにロイドの眠るベッドへ寄り、そっと片膝を付いた。

「…ただいま。」

精一杯の言葉を震える声で紡いだ。
その声は昔ロイドに掛けた優しい声で。

「…クラ、ト…ス…?」

ロイドの瞳が露になる。
霞んだ曇り硝子のような色、弱々しい光が支配する瞳。
だがその視界一杯にクラトスを捉えると、曇り硝子のような瞳に溢れんばかりの涙が溜まった。

「クラトス…本当に、クラトス…なのか?」
「ああ…待たせてしまった、済まない。」
「馬鹿野郎…こんなに息子を待たせて…俺、何回も会いたい…って願ったのに…っ!!」

細く痩せた腕がクラトスに伸びる。
その掌は這うようにクラトスの頬に触れて、溜まっていた涙がぼろぼろと零れた。
次々と零れ落ちる涙が枕を濡らし、すぐに水の染みを作る。

「逢いたかった…逢いたかった、クラトス…!!」
「私もだ…100年、よく待ってくれた…」

ぽろぽろと、気付けばクラトスも涙を零していた。
しかしそんな事には気付いていなくて、クラトスはロイドの涙を舌で拭った。
そして、唇を重ねる。
ただいま、そして、おかえり。
痩せ細った体躯はクラトスに抱きかかえられて、深く、深く口付けを交わした。



さよならの後に手を繋ごう
(僅かな再会でも、私に幸せが訪れる。)
(今生の別れなんていらない、俺を連れて行ってほしい…)





+++
長い!!!!!
やり過ぎた感が漂ってます…しかもクラロイ要素最後の方だけじゃないか!!!orz
滅茶苦茶パラレル色が強いですね…ラタトスク要素ガン無視。
因みにセイジ姉弟はハーフエルフだから長命だし、コレットは天使なのでやっぱり長生き。
如何でもいいんですがジーニアスはロイドより身長が高くなりました、コレットはあんまり変わってないかも。
タイトル、酷く噛み合っていない感じがしますが「繋ぐ」じゃなくて「繋ごう」と希望系なので其処は突っ込みを入れないで欲しい…←
書いている本人が一番矛盾に気付いてますから´・ω・
…そう言えば、父さんはどうやってデリス・カーラーンに戻る気なんだ^p^

10-06/19
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