笑ってくれる、傍で優しく支えてくれる。
それだけで、禁忌と呼ばれた感情は歓喜する。
伝えた事はない、伝えるつもりなどない。
いつかその罪が露見して自らを破滅に追いやると知っているから。
嫌なくらいに完璧主義で潔癖な自分を知っているから。
だからこそ、旅の仲間として手を差し伸べてくれたロイドに嬉しさの半面、恐怖を覚えた。
もしかしたら、気付かれてしまうのでは。
いつまでも隠し通す事など出来るわけがない。
それが恐怖だった。
本来、感情を表に出す事を苦手としているから気付かれない、そう信じていた。


* * *


目的の街までまだ距離があるからと野営を行う事になった日。
ロイドは複雑そうな表情でクラトスの元に歩み寄ってきた。
爆ぜる炎から視線を外して、クラトスはロイドを見た。

「…どうしたのだ?」
「いや、少し話をしたくてさ…」
「話?」
「うん…隣、いいか?」

こくん、と頷きクラトスは倒木の端に寄るとロイドが空いたスペースに腰掛ける。
数秒の沈黙、最初に破ったのはクラトスだった。

「…話とは?」
「あ、ああ…うん…」

此処に来た理由を忘れていたのか、話を振られてロイドは小さく身じろいだ。
話しにくい事なのか。
ロイドが話し出すまで静かに耳を傾けていると、ロイドは困ったように笑った。

「…はは、情けないな。話がある、なんて俺から言ったのに…」
「誰でも言いづらい事の一つや二つ、あるだろう。」

自分に言い聞かせるように。
それが自らに言い聞かせた言い訳のように。
ロイドはそうだよなと呟き、きゅっと目を瞑った。
まだ言い淀んでいて、寧ろ此処まで言いづらいなら言わない方が好いのではないかとクラトスは思った。

「…クラトスは、知ってたんだよな。」
「私がお前の父だと言う事を、か?」
「うん。」
「…あの時、フラノールで言った通りだ。アンナの墓を見て、確信した。」
「じゃあ…何で、ユグドラシルに…ミトスに従って…」
「……」

言いづらかった理由が漸く分かった。
彼は、ロイドは、クラトスを責める結果になると分かっていたから言えなかったのだ。
だが一度言ってしまえば言葉を矢継ぎ早に口から溢れてしまう。

「なぁ、クラトス…どうして、だよ…ッ!」

嗚咽混じりの声は、張り裂けそうだった。
クラトスは目を伏せ、黙る以外に道はなかった。
幾ら形だけと言い、最愛の息子を裏切ったのは事実だから。
だが無言が悪循環を生み、ロイドの瞳には溢れんばかりの涙が溜まっていた。
クラトスはこんな沈黙の訪れに、自分が口下手な事を酷く情けないと思った。

「ロイド…私は…」
「解ってるんだ、クラトスの立場が危うくなる…解ってる、解ってる…けど…ッ!」

否定でも肯定でもない。
曖昧なロイドの言葉は自らの葛藤を表しているのだろうか。
クラトスは言葉を探しあぐねて数回口を開閉して、やがて瞼と共に口を閉じる。
やがてクラトスが静かに瞼を開いて、ロイドを見据えた。

「…何故、」

漏れた言葉はひとつの単語。
まったく意味を成さないそれに、ロイドは小さく眉をひそめた。

「何故、今更になってなのか…訊いてもよいか?」

あの時からもうそれなりの時間が経過している。
仲間として迎え入れられて即座ならこのような疑問を抱かなかっただろう。
だから不躾(ぶしつけ)を承知でクラトスは訊ねた。
ロイドは数度瞬きをしてから小さく頷いて口を開いた。

「…ほんとは、もっと早く聞くつもりだったんだ。だけどいざ聞こうって思うと、答えが怖くなってきて…今日まで聞けなかった。」
「……」
「臆病者、だよな…俺。」
「そんな事は…」
「いいんだ、慰めてくれなくて。事実だから…さ。」

悲しそうに笑うロイドの瞳は酷く寂しそうだった。
純粋に、ただ純粋に絆を求めようとしている。
たった一人の肉親を敵に回したくなどないと、訴えている。
それが、今のクラトスには眩しかった。

「表向きとは言え、ロイド…お前を悲しませる結果になった事はととも申し訳なく思っている。」

本音を零せば、元より大きな瞳を更に見開いてロイドはきょとんとした表情に変わる。
ああ、可愛いなとクラトスは小さく微笑み、自分より一回り近く小さな体躯を抱き締めた。

「ぇ、あ…クラ、トス?」
「それがお前を苦しめていたのだな…」
「……」
「済まなかった…」

ぱちぱちと静かに火がはぜる。
緩やかに燃える橙色の輝きが、2人を優しく包んだ。

「ロイド…」
「な、なんだ?」

呼び掛けに答えた彼をより一層強く抱き締めて。
唇を耳元へ近付ける。


「     」


紡がれた言葉は空気に混ざって、風に攫われた。
だが、ロイドの耳には届いたのか彼は顔を真っ赤にしてクラトスを見上げた。
そして恥ずかしそうにはにかみながら、小さな声で呟く。

「…俺も、だよ。」

ぱちぱちとはぜる火は、いつの間にか強くなっていた。
それはまるで2人を祝福するかのように、強く、強く燃えていた。



Coward
(臆病者は、最後に笑った。)




+++
シリアスだけど何処か優しい雰囲気を出そうとして玉砕。
親子以上恋人未満な2人が大好きです、そして本当に私は炎の類の描写好きだよね…今更だけど。
携帯で打ち込んでパソコンで編集って何ヶ月振りだろうか…
タイトル和訳→「臆病者」

10-09/05
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