「…昨日の夜ね、夢に嶺ちゃんが出てきたんだ」



唐突にそう言うと、嶺ちゃんは一瞬だけ固まって目をぱちくりさせた。
そしてすぐに眉を下げて、照れたように笑う。



「え、ぼくが?嬉しいなぁ、夢の中でまで一緒にいられるなんて!…で、どんな夢だったの?」

「んー…と、内容はあんまりよく覚えてないんだけど、とりあえず嶺ちゃんがずっと抱き締めてくれててね」

「…ふむ」

「頭をナデナデしてくれてたんだ。ほんと、覚えてるのはそれだけなんだけど…なんかすっごく気持ちよくて暖かい感じがして…。やっぱり夢の中でも嶺ちゃんは嶺ちゃんだなぁって」

「ふーん…、そっか」



茶色を帯びた瞳がふっと伏せられたかと思うと。

ぐっと腕を引かれて、座ったまま正面から抱き締められた。



「……?嶺ちゃん?」

「ねえ。…夢の中のぼくと、現実のぼく…どっちがいい?」

「…え?」



突然の質問。上から降ってきた声にいつもの元気はなかった。



「どうしたの?突然」

「んー、特に深い意味はないけど…すごく嬉しそうに夢の話してたからさ」

「え…そうかな?でも私は、現実の嶺ちゃんの方が好きだよ」



くっつけ合った体から直接伝わってくる体温、頬を寄せた胸から感じる鼓動。



「―ほんと?なら、いいんだけどねっ」



そう言って私の顔を覗きこんだ嶺ちゃんが見せたのは、私の大好きな柔らかな笑顔で。





――君は……目の前のぼくだけを見て、感じて。

ぼくだけを好きでいればいいんだ。




そう囁いた彼の唇が、チュッと音を立てて私の額に触れた。




****************

夢のなかの自分に嫉妬する嶺ちゃん。




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