ウィズ・ラブ | ナノ

今日は朝からとてもいい天気だ。
こんな日はデスクワークなんて放り出して散歩でもしたくなる。ちらりと窓の外を見れば私を誘うように輝く太陽。よし、少しだけ休憩と称したお散歩をしてこよう。そう思って私は部屋を飛び出した。


やっぱり外は暖かく、時折吹く柔らかい風が心地いい。中庭へ赴けば誰がやっているのか分からないが丁寧に世話をされた緑が美しく、その中をのんびりと歩く。
すると中庭の端の辺り、木陰にしゃがみ込んでいる人が見えた。

――誰?何をしてるの?
一瞬不審者かとも思ったがこの調査兵団本部に乗り込もうという輩なんでいないだろうし、何より自由の翼を背負ったジャケットを着ているので、間違いなくこの兵団の兵士だろう。問題はあんなところにしゃがみ込んで何をしているかだ。とにかく怪しい。

私は迷った挙句、ゆっくりと歩を進め木陰へと近付いた。すると、そこにしゃがみ込んでいたのは私が最もよく知る人物で。

「え、リヴァイ…?」

思わず声を掛けると彼はバッと顔を上げ此方を見る。
人類最強ともあろう男がこんな薄暗い木陰で一体何をしているんだ。

「ナマエか…、驚かせるな」
「えっ、ごめん…でもかなり怪しいよ、リヴァイ」
「しっ!大きい声を出すな」
「えぇ…?」

いつも通り話し掛ける私とは違い、彼はなぜか声を潜めて話す。しまいには煩いと怒られ、もう一体全体何が何だか分からない。
しかしじっと見れば、彼の手が何かに触れていることに気付く。身体を屈めて覗き込めば、そこには――、

「かっ、可愛い…!!」
「おいっ、煩いと言っているだろうが…!」
「ニャア?」
「…っ、起きちまったか…」

そう、彼が撫でるように触れていたのはまだ小さな猫だった。ふわふわの毛並みが気持ち良さそうだ。芝生に寝転んでいた身体を起こした子猫は、ぐうっと伸びをしてリヴァイの手に擦り寄る。え、懐かれてるの。

「先日ここに迷い込んでいるのを見つけて薄汚かったから洗ってやったんだが…妙に懐かれちまったようだ」
「えぇ、リヴァイって猫好きだったの?」
「いや、どちらかと言うと従順な犬の方が好みだが、まぁ猫も悪くない」
「その趣味はよく分からないけど……ね、私にも触らせて!?」
「は?おい、ナマエ…」

彼の手にじゃれつく子猫に手を伸ばせば、一瞬驚いたように跳ねる。けれどすぐに私の手にも身体を擦り付けてくれるあたり、もしかしたらどこかで飼われていた猫で人間に慣れているのかもしれない。あまりの可愛さに私は両手で子猫を抱き上げる。見るからにふわふわの毛並みは、やはり触れると柔らかくて気持ちよかった。

「うわぁ、可愛いねぇ!名前は何ていうの!?美人さんだねぇ!」
「ナマエ、少し落ち着け。それにそいつは雄だ」
「えっ?あっ、本当だね!それにしても……可愛いなぁ…!」
「……ハァ」

実は馬だけでなく犬や猫も大好きな私は、この愛くるしい表情を向ける子猫にもはや骨抜き状態だ。ただ散歩に出ただけがこんな癒しに出会えるなんて。リヴァイももっと早く教えてくれたらいいのに、きっと彼もこの子を独り占めしたかったのだろう。すっかり芝生に座り込んで興奮状態の私にため息を吐きつつも、彼もまたその目元に優しさを携えてじっと子猫を見ていた。そういう表情もできるのか。なんて少し胸を高鳴らせながら彼を盗み見ていると、私の両腕に抱かれた子猫がまたもやじゃれ始めた。時折ペロペロと小さな舌で肌を舐められ、くすぐったい。

「わっ、ちょっ」
「ニャア」
「ひゃ、くすぐったい…んっ」
「……おい、ナマエ。そいつを寄越せ」
「えっ?」
「ニャ!ニャア!」

じゃれ付く子猫を少々強引に引き剥がすと、またもや彼の腕の中へと戻る。いきなり何だと唇を尖らせれば、「やらしい声を出してんじゃねぇよ」と悪態をつかれたがこれは不可抗力だ。
仕方ないので彼に抱っこされてウトウトしてきた子猫を優しく撫でてやる。
多忙な毎日の、ちょっとした穏やかな時間。可愛い子猫と目付きの悪い彼があまりにもミスマッチで思わず笑えてくるが、これはこれで幸せなのでよしとしよう。

「ねぇ、リヴァイ。私その子部屋で飼いたい」
「は?」
「エルヴィンに許可取ってくる!」
「は?おい、ナマエ!?」

居ても立ってもいられなくなりエルヴィンに直訴しに行けば、割とあっさり許可が降りた。そして今日から私の部屋にルームメイトが一匹増えることとなる。

「おい」
「ニャ?」
「お前、俺がナマエの部屋にいる時は邪魔すんじゃねぇぞ」
「……」
「無視すんな、おい」

130918
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