リトル・バイ・リトル | ナノ

その日はやたらと会議が長引いた上に仕事が片付かず、昼食のために部屋を出られたのはすっかり太陽が高くなった頃だった。空腹の限界がきたため一人で食堂へ向う。食堂にはやはりほとんど人が残っておらず、まだ残っていたパンとスープをトレイに乗せ、端の方のテーブルに着いた。

食べ終わったら食後の運動として誰かとっ捕まえて対人格闘でもしようかな。そんなことを考えながら温かいスープを啜っていると、ふと私の名を呼ぶ声が聞こえた。

「ナマエ分隊長!」

呼ばれた名前に顔を上げれば、食堂の入り口で妙に嬉しそうに手を振るサシャが見えた。彼女の隣には見たことのない小柄な男の子もいる。あの子たちも今から昼食なのだろうか。サシャは相変わらず元気だなぁと思いながら眺めていると、彼女は猛スピードでパンとスープを大盛りにしてトレイに乗せ、男の子を引きずるようにして私の元までやってきた。

「ナマエ分隊長!ご一緒してもよろしいでしょうか!」
「はい、どうぞ」
「失礼致します!」

どうやら懐かれてしまったようだ。先日の餌付けのせいかな。隣の男の子はサシャの強引さに半ば引き気味だ。

「コニーも早く座ってくださいよ!」
「おい、サシャ!引っ張るなバカっ!」
「そっちの子は見ない顔だね。サシャと同じ新兵の子?」
「あっ、はい!コニー・スプリンガーです!」

トレイを手に持っているために敬礼はできないが、きっと両手が空いていたら迷わず敬礼をするに違いない。これまでのパターンでなんとなくそう思った。さっさと座り「早く早く」と促すサシャに続き、コニーもおずおずと席に着いた。その間に私も自己紹介をしてよろしく、と言えば例に漏れずもう一度敬礼をしようとしたので丁重に断った。

「食べないの?」
「食べます!いただきます!」
「おい…!サシャ!」
「コニーも、食べたら?」
「!はい…い、いただきます…」

どうやらサシャよりは良識と遠慮ってものがあるらしい。上官を気遣うという謙虚さは素晴らしいと思うけれど、サシャのように図太いのもまた可愛らしい。あくまでも私個人の感覚だが。

「サシャは相変わらずすごい食べっぷりだねぇ」
「ふあい!やふほはひふへはんへふ!」
「んん?何?」
「おいサシャ、落ち着け!」
「ふは!」

どうやらよっぽどお腹が空いていたらしい。ご馳走でも目の前にしたかのように口いっぱいにガツガツと平らげていく様子は見ていて清々しい。コニーも空腹には抗えなかったのか、サシャに小言を言いながらもパンを口に運ぶ手を止めない。この二人なんだかいいコンビだなぁ。そう思うと自然と頬が緩む。
それからサシャは食べている途中であった私よりも先にお皿を空にして、満足そうに笑った。

「ふはー、やっとありつけたご飯は格別ですねぇ!」
「やっと?今まで何してたの?」
「う、午前中の訓練で分からないところがあって居残りをしていたんです…コニーがバカなので仕方がないですけど…」
「分からなかったのはお前も一緒だろ!」
「あはは、コニーはバカなの?」
「う…!…バカです…」
「ははっ!自分で言うの?」
「コニーは本当にバカですもんねぇ!」
「お前も食い意地張ったバカだろ!」

二人の掛け合いは聞いていて物凄く面白い。にこにこと笑いながら歯に物着せぬ言い方なサシャに、的確なのかずれているのかよく分からない突っ込みを入れるコニー。二人ともバカだというけれど、二人とも確か上位者名簿に名前があったような。きっと身体能力がすごく高いのだろう。

「午前は何の訓練をしたの?」
「…索敵陣形についてだったんですが、どうも難しくて…」
「今日初めてだったの?」
「はい…」
「んー、確かに配置も様々だし、訓練兵の時には全く馴染みなかったもんねぇ」
「そうなんです!それにちゃんと本番で出来るのか不安で…」

いつの間にか食べ終わっていたコニーが不安そうな表情を見せる。サシャは未だに何か食べているし、本当にマイペースだなぁ。
入団したばかりの新兵には何から何まで新しいことばかりで、不安を感じるのも無理はない。随分昔のことだが私もそうだったような記憶がある。生き残るために必要な知恵を、これから死ぬ気で叩き込まなければならないのだ。そんな彼らより少しだけ長く生きている私が、何か教えてあげられればと思う。

「復習しようか。図面持ってる?」
「え…?」
「もう次から実際に馬に乗って訓練するんでしょう?それまでに理論だけでも完璧にしておこう」
「はっ、はい!おい、サシャ!お前いい加減食べ終われよ!」
「ふあい!」

コニーは目の色が変わったように、トレイを除けて図面を取り出す。それに続くようにサシャも残ったパンを一気に詰め込み、同様に図面を取り出した。気合十分な二人を前に、なぜだか教壇に立ったような気分になる。

「ナマエ分隊長に直々に教えて頂けるなんて嬉しいです!」
「おい、それ俺が言おうと思ってたんだぞ!」
「ナマエ分隊長はやっぱり神様です!」
「ナマエ分隊長!ありがとうございます!」
「ふふ、なんか憎めないね、君たち」

コニーもサシャもバカだと言うけれど、そんなところも可愛いし憎めない。必死にメモを取る二人に笑いかければ照れたように笑い返してくれたものだから、私はますますこの二人を好きになったのだ。

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