リトル・バイ・リトル | ナノ

調査兵団特別作戦班ーー通称リヴァイ班が始動してから、リヴァイは旧本部で生活をしている。現本部にて日々業務をこなす私は、彼とはしばしのお別れだ。少しだけさみしい気持ちもあるけれど事情が事情なだけに仕方がない。本当は何か理由をつけて会いに行きたいところだけれど、リヴァイに会いたいがためだけに赴くのは何だか沽券に関わる気がしていた。

が、今日はれっきとした理由がある。

「やっと着いた…」

愛馬から降り、今は使われていない旧本部を眺める。
今日ここにやって来たのは、来月予定されている壁外調査の資料をリヴァイに渡すためだ。わざわざ私が届ける必要など全くないのだが、おそらくエルヴィンが気を利かせてくれたのだと思う。仕事と関係ないところまで妙に鋭い人だ。
そんな我らが団長の命でやってきた旧本部、ここにリヴァイ率いる特別班がいるのだ。

その中には例の少年、エレン・イェーガーも。
審議所で痛々しい目に合っていた彼は、なんと巨人になれるらしい。ハンジほどではないけれど私もそれなりにその生態に興味がある。そして新兵と関係を築きたいという思いも忘れてはいない。さて、件の少年には会えるのだろうか。


「おーい、誰かいる?」
「ナマエ分隊長…?」
「あっ、ペトラ!」

正面玄関から入り人気を探すと、最初に会ったのはペトラだった。どうやら掃除中なのか、箒を持ってどこかへ行こうとしているところだった。

「掃除中なの?」
「はい、まだ全ての部屋を掃除できていなくて…」
「そうなんだ。手伝おうか?」
「いえ!分隊長にそこまでしていただくわけにはいきません!」
「そう?」

相変わらず丁寧な子だな。しかも可愛い。毎度のことながらペトラと話していると物凄く癒される。
だがここで忘れてはならないのは、私が旧本部に来た目的だ。他の班員、そしてリヴァイはどこにいるのだろうか。

「ナマエ分隊長はどうされたんですか?わざわざこんな所まで…」
「書類を届けに来たの。リヴァイはどこにいる?」
「でしたら中庭です。多分まだ掃除をしてらっしゃいます」

リヴァイまで掃除って、訓練はしないのか。
思わずそう突っ込みたくなったが、潔癖性の彼がこの荒れ果てた旧本部を許すわけがないだろう。きっと訓練の合間を練って隅から隅まで掃除をするつもりだ。

掃除を続けると言ったペトラと別れて、建物内を進む。
予想外に複雑な造りで迷いそうになりながらも、長い廊下の先にようやく外へ出られそうな扉を発見した。無駄に広いお城だなぁなんて思いつつ足を進めると、「ナマエ分隊長?」ふと声を掛けられた。
そこにはまたもや見知った顔が、三人。ここは大食堂だろうか、ペトラと同じように三人とも箒を持っていた。

「ナマエ分隊長、お疲れ様です」
「エルド!グンタ!と、オルオ?あれー、オルオ髪型変えた?」
「はい、どうでしょうか?俺的にはなかなか決まってると思うんですが」
「うーん…」
「おい、オルオ!分隊長を困らせるな!」
「んー、まぁいいんじゃないかなぁ」
「はははっ!よかったなオルオ!」

相変わらず自意識過剰なオルオと、そんなオルオを注意するグンタ、そして楽しそうに笑うエルド。こんな和気あいあいとした雰囲気を醸し出していても、この子達はリヴァイに直々に選ばれた精鋭だ。こうしていたら全くそうは見えないのだから不思議なものだ。

「あれっ、ナマエ分隊長」
「あ、ペトラ。掃除終わったの?」
「はい、終わりました!ねぇちょっと、オルオ?あんた分隊長を困らせてるじゃないでしょうね?」
「ふ、嫉妬か?ペトラよ」
「誰が!ていうかその言葉遣い本当にやめてくれない?全然似てないから」

掃除を終え現れたペトラと、無駄に絡むオルオとの言い合いが始まる。この二人は入団当初からこうだったなぁ、なんてしみじみ思い笑みが漏れた。

「本当に仲良いなぁ、あの二人は」
「はは、普段はあんなんですけど、あいつらもやる時はやりますよ……多分」
「あはは、そうだね」

エルドがそう言うなら安心だ。思わず笑ってしまったけれどあれで手練れた子達だ。
そんな二人は未だ何か言い争いを繰り広げる。エルドとグンタもしばらくは苦笑いで見ていたけれど、いい加減表情が硬くなってきた。

「ナマエ分隊長、何か御用があったのでは?」
「あ、そうだった!ありがとうグンタ!」
「兵長ですか?」
「うん、そうなの。あとはエレン・イェーガーに会いに!」
「エレン、…ですか?」
「うん、中庭にまだいるかな?」
「はい、いると思います」

何やら怪訝そうな視線を向けられたけれど、無理もないか。彼らもまだきっと、エレン・イェーガーにどう接していいのか分からないのかもしれないのだから。
それでも彼への興味は尽きない。
この長い廊下を進めば中庭だ。噂の少年と、リヴァイに早く会いたい。

今日も世界は美しい
130819
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